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執筆が楽しくなってきただ。


by tsado18

女達・それぞれの道(その3)

               ・・・・・・・・・・★4・・・・・・・・・・
「おばさん、お久しぶりです。マサキ、大事故を起こし、死ぬところだったなんて、全然、知りませんでした。気がつかずにごめんなさい。知っていたらすぐ駆けつけたんですけど」
「あら、良いのよ。来ていただいても、面会謝絶状態だったから何もできなかったわ。私達も気が動転していて、あなた達に知らせる余裕なんか全くなかったんだから」
「母の話ですと、車椅子生活になってしまったとか」
「あの明るいマサキが、すっかり変わってしまったわ。ずっと心を閉ざしているの。何も話してくれないわ」
「リハビリを始めているんですか?」
「ええ、でも、まったくやる気がないの」


「ケンジ君、フィリピンの女の人と結婚するんだって?」
「お袋から聞いたんですか? どうせばれることだから、先に言っておきます。結婚する女性、マニラの売春婦だったんです。お袋、それがひっかかっていて、いまだに結婚を止めるように僕を説得するんです。一度会ってくれれば、絶対に気にいってくれる自信はあるんですが」
「女性恐怖症の昔のケンジ君を思い出すと、信じられないわ。よほど優しくて素敵な女性なのね」
「ええ、最高に素敵な女性です。彼女のことを思うと、僕、何でもやり遂げることができそうな気持ちになるんです。ごめんなさい。マサキのことも考えずに、こんなこと、言っちゃって」
「いいのよ。おめでとう。今となっては、マサキが彼女を作って結婚するなんてこと。もう夢の夢になっちゃったわ。情けなくて涙が出てしまう」
「おばさん、ごめんなさい。僕だけ、幸せになって。けど、けど、よけいなことかもしれないけど、マサキもフィリピンに付き合っている彼女がいるんですよ。いけない、口止めされていたのに。マサキに怒られるな」
「本当。本当なの、ケンジ君。その子のこと、もう少し詳しく、おばさんに話してくれない?」
「ケンジも、僕の彼女の友達と付き合っていたんです。すごく綺麗で素敵な人です」
「その人も売春婦?」
「そうです。でも、大学生でもあるんですよ」
「おばさん、売春婦に対して君のお母さんのように偏見は持ってないわ。安心してなんでも話して」
「ジャネットが電話で言うには、その子が妊娠したんだって。すいません。ジャネットって僕の結婚する女性です」
「で、そのマサキの彼女のお腹に入っている子、マサキの子なんだそうです。産む決心をして、お腹の中で順調に育っているんだって。マサキに迷惑がかからないように、シングルマザーになって育てるんだそうです」
「ケンジ君! その話、本当!」
「嘘を言うわけありませんよ。ジャネットから、あれじゃ、あまりにも可哀そうだから、マサキにそっと伝えて、と頼まれているんです。その前におばさんに言ってしまったけど」
「ありがとう。ケンジ君、ありがとう。本当にありがとう。涙がでてきたわ。早速、その子に会いに行かなくちゃ。ケンジ君、お願い。休みが取れ次第、私と一緒に、マニラに行ってくれない? 費用は全部、おばさんが持つから」
「いいですけど。でも、おばさん、お願いです。マサキの彼女に少し援助してやってください」
「もちろんよ!」


「蛙の子は蛙よね。あなた、玉の井の娼婦だった私に惚れて惚れて、結婚してくれなければ死ぬなんて脅したのよね」
「お前と一緒になることができて、仕事にもやる気が出て、つぶれかけていた親父の料亭を、新橋の一流料亭と言われるまでにすることができた。これも、女将としての、お前の人柄、手腕によるところが大きい。感謝しているよ」
「あら、嫌だ。あなたの作る料理がおいしいからよ」
「だから、マサキの相手が娼婦だろうが、俺は少しも気にしないよ。明るくて、人柄のいい子であることを祈るばかりだ」
「私、来週、ケンジ君と一緒にマニラに飛んで、その子に会ってこようと思うんですけど」
「その子はその子で一生懸命考えて生きているはずだ。けして自分の思いだけを優先させて先走らないようにな。性急さがお前の悪い癖だ」
「はい、はい、耳にタコができていますわ」


「ゴメン。マサキ、お前が怪我したの、今までずっと知らないで」
「いいって、ことよ。それより、お前、ジャネットとはうまくいっているのか?」
「しぶっていた親から、家を出ると脅して、なんとか結婚の承諾を取ることできた。これから結婚式をあげ、なるべく早く日本に呼びよせようと、思うんだ。その準備に、来週、マニラに行ってくる」

「マサキ、お前、アイアンと、連絡、取ってるのか?」
「いや、こんな身体になってしまったんだ。取れるわけないだろ」
「アイアンは振られたと思い込んでいるそうだ。気が強くプライドの高い女性だから、面には出さないんだって。けど、ずっと落ち込んでいるみたいだぞ」
「早く俺のこと、忘れて、いい男を探すように言ってくれ」
「ふざけるな。マサキ! アイアンの身体の中にお前の子供が育っているんだ!」
「本当か! そういえば、コンドーム、使うのが嫌で、外出ししてたんだった。どうしよう。生まれてくる子に会いたい。でも、俺のこと、知ったら、中絶するかもしれないな」
「馬鹿やろう! アイアンを見損なうな。昨夜の電話だと、その子を無事出産したそうだ。そして、シングルマザーになって、その子を育てるつもりになっているんだそうだ」
「うれしい! 魂が震えるようにうれしい! 涙が出てきた」
「ジャネットから、マサキに伝えてくれと言われたんだ」
「アイアンに、おめでとうと言ってくれ。ケンジ、俺、どうしたらいいんだ。わからなくなってきた」
「お前、自分の中に逃げ込んでいないで、責任を取る必要があるな」
「責任を取るといっても、こんな身体の俺に何ができるんだ。できることがあったら、何でもするよ」
「お前の家、裕福だ。いろんな責任の取り方があるだろ。それよりも、アイアンと一度、じっくり話し合ってみなければいけないな」
「そうだな。お袋にも相談してみるよ」
「ごめん。マサキ、おばさんに、さっき、ポロリと漏らしちゃったんだ。俺もなんとかしたくて、ついつい漏らしちゃったんだ」
「アイアンを振るなんて気持ちはこれっぽっちもなかった。いろいろ忙しくて連絡できなかっただけだ。そして、このザマ。死にそうになっていたとき、ずっとずっとアイアンの顔が思い浮かんでいたんだ。夢の中のアイアンが俺を励ましてくれていた。アイアンのこと、本当に好きなんだとわかったんだ。今は、アイアンのことを思うときだけ、気持ちが明るくなる。生きる気力が沸いてくるんだ」
「マサキ、アイアンの性格、よく知っているだろ。アイアンはお前に振られたと思って、無理して突っ張っている。お腹の子を認知だけはしてやれよ。できるなら、結婚した方がいいんじゃないか」
「もちろん、俺もそうしたい。でも、こんな身体になった俺と、アイアン、結婚してくれると思うか?」
「アイアンに気持ちをぶつけるほかないな」


「マサキ、ケンジ君から、マニラのお前の彼女のこと、しつこく聞き出しちゃった。アイアンって言うんだってね。で、母さん、来週、マニラに行こうと思うんだ。お前も行かないかい?」
「もちろん、行くよ。俺、アイアンと話し合わねばならないこと、たくさんあるんだ」
「母さんとしては、そのアイアンという子と結婚してもらいたんだ」
「俺もそうしたい。でも、俺のこんな姿みたら、結婚してくれるかどうか心配だ」
「お前の車椅子姿を見て気が変わるような子だったら、母さんは結婚に反対だね。始めからお前のことなんか愛してなんかいなかったんだよ。あきらめな。でも、お金をたっぷり積んで、子供だけは何としてもいただくわ」
「母さん、アイアンはそんな話に乗るほど無責任な女性じゃない!」
「じゃあ、問題なしよね」
「でも、母さん、その子、ずっと身体を売っていたんだ。ケンジの彼女と一緒、売春婦だったんだ。それでもいいかな」
「いいも悪いもないよ。ずっとお前達に秘密にしていたんだけど、母さん、父さんと一緒になる前は、東京の玉の井というところで娼婦だったのよ。その子にも、いろいろと事情があったんだろ」
「母さん、アイアンの気持ちがわかるんだ。アイアン、聞いたら、喜ぶな」
「どうかなあ。時代も、国も、違うよね。ただ一つ、偏見だけは持ってないからね」



               ・・・・・・・・・・★5・・・・・・・・・・
アイアンが、ソファーに座り、上着のボタンを外して、生まれてきた赤ん坊に、幸せそうに授乳している。

「ウン、ウン」
「え~、本当?」
「わかった」
「ハイ、ハイ、いいわよ」
「ワァ~、うれしい!」
「ケンジ、愛してる! じゃあね、バイバイ、明日ね」
ジャネットが弾むような声で電話している。いいな。羨ましいな。でも、ジャネットのこと、喜んでやらないとな。私はこの子としっかりと明るく生きていくていくんだから。赤ちゃんの顔をみていると、勇気が湧いてくるの。なんだかそんな生き方、できそうな気もしているの。

「アイアン、私、うれしくて、うれしくて。明日、ケンジとケンジのお母さんがここに来るんだって」
「よかったな。いよいよ結婚秒読みだ」
「それどころじゃないわよ。アイアン、心を落ち着けて聞いて! いいかい、よ~くよ~く心を落ち着けて聞くのよ!」
「何だよ。前置きが長すぎる」
「マサキが電話をかけてこなかったのは、大変な事情があったのよ。マサキ、車で大事故を起こして死ぬところだったんだって。今は、半身不随で、車椅子の生活になっちゃっているそうよ」
「ヒエェ~、神様! 助けて! でも、でも、まだ生きているのよね。よかった!」
「それでね。ケンジ達と一緒に、マサキとマサキのお母さんも、明日、マニラに来るんだって」
「ヒエェ~、わけがわからなくなっちゃった。マサキ、身体、大丈夫なのかな」
「それで、マサキがアイアンと話をしたいんだって。30分後に電話かけてくるって」
「ヒエェ~、私、身体が震えてきている。ジャネット、私の手を握っていて!」


「アイアン、マサキだ。久しぶり。元気か?」
「マサキ。マサキ。マサキ。本当にマサキだよね。元気よ。マサキ、聞いて。マサキの赤ちゃん、生まれたの。今、大きな声で泣いている。聞こえる?」
「聞こえているよ。最高にうれしい。でも、俺、事故で傷害者になっちゃったんだ。車椅子の生活をしている」
「だから、何よ。私がマサキを愛していることには変わりないわ。マサキが生きているんだもの、神様に感謝よ」
「有難う、アイアン。明日、マニラにいくこと、聞いただろ。そのとき、ゆっくり今後のことを話し合おう」
「わかったわ」
「愛してるよ、アイアン」
「マサキ、私もよ。愛してる! 愛してる! 愛してる!」
アイアン、涙をボロボロ流しながら、受話器を置く。
「ウワァ~ン。私、ずっとずっと、マサキのこと、お世話して、守ってあげる。ウワァ~ン。だって、だって、私が始めて心から愛した男なんだもの!。この子のパパなんだもの! ウワァ~ン。ウワァ~ン。ジャネット、私、シングル・マザーにならなくていいかもしれないね」
「そうだね。アイアン」


             ・・・・・・・・★6・・・・・・・・
翌日の昼過ぎ。外は真昼の陽光がカンカンと照りつけている。室内はクーラーがフル操業。観葉植物の緑が浮き立つ二人の眼に鮮やか。
ジャネットもアイアンもそわそわ。少しも落ち着かない。
「飛行機の時間からすればそろそろ到着よね」
「あたし、興奮して、昨夜から一睡もできてないの。目が腫れぼったくない? マサキに変な顔、見られたくないわ」
「大丈夫よ。アイアン。とっても綺麗。輝いているわ」

ファミリールームに、ケンジとケンジの母親、マサキとマサキの母親が入ってくる。
車椅子のマサキと、赤ちゃんを抱いたアイアンが、じっと見詰め合う。二人の瞳から大粒の涙が次々と流れ出して止らない。
「マサキ、会いたかった・・」
「アイアン、俺も会いたかった・・」
マサキの母親がアイアンの腕から赤ちゃんを抱き取る。アイアン、マサキの首っ玉に抱きつき、熱い、熱いキス。息をついで、また熱い、熱いキス。さらに息をついで、熱い、熱いキス。
「あたし、赤ちゃん、産むとき、マサキのことばかり考えていたの」
「俺も、死にそうなとき、アイアンのことばかり思い出していたんだ」
涙を拭こうともせず、また、熱い、熱いキス。

「何よ、この子達ったら。恥ずかしげもなく。人に見せるものじゃないでしょ」
「おばさん、いいじゃないですか。二人ともつらい思いを乗り越えてやっと会えたんだもの。なんだか、俺まで泣きたくなっちゃった」
「ケンジ君、おばさんもよ」
ケンジとジャネット、お互いの腰に手をしっかり回し、頬を寄せ合って、うっすら涙を滲ませて微笑んで見守っている。
「ジャネット、俺にも熱いキスしてくれよ」
「恥ずかしいわ。お母さんが見ている」
「俺、我慢できないよ」
「二人きりになったとき、たくさん、たくさんしてあげるわ」

「マサキ、汗かいているわね。シャワーに入ろう。私、洗ってあげる」
アイアン、マサキの服を脱がせ、自分も下着姿になって、マサキを支えながら、バスルームに二人して消える。シャワーの音とヒソヒソ話。30分過ぎても、出てこない。
「二人で何してるんだろうね。マサキ、私には、下半身、絶対に洗わせなかったのよ。赤ちゃん、もうお腹すかしているわ」
非難めいた言葉とは裏腹に顔が笑っている。
「今時の若い子ははしたないんだから。中で赤面するようなことをしているんだろうな。でも、でも、とてもうれしい。マサキが生きる気力を取り戻してくれているんだもの」

ジャネットと堅く抱き合っていたケンジ、思いだしたように、母の方を向く。
「母さん、こちら、ジャネット。仲良くしてよ」
「じゃネット、よろしくね。可愛らしい子ね。ケンジが惚れるのも無理ないな」
「ママ、はじめてまして。よろしくお願いします。あっ、ママって呼んでいいですか?」
「もちろん、いいわよ」
「ママ、私、日本でも稼げるように、マサージ、習ってきたの。よろしかったら、私のマッサージ、受けていただけませんか」
「あら、うれしいわ。でも、後でいい。今すぐに、二人でしたいこと、あるんでしょ」
「そうそう。母さん、俺とジャネット、部屋で二人だけの大事な話があるんだ」
「はいはい、とっとと消えなさい。マサキさん達と同じようなことしたいんだろ。とりあえず30分くらいよ。残りは今夜にとっておくのよ」
「母さん。有難う。ジャネット、行こう」

「母親、二人が取り残されちゃったわね。まあ、若い者には若い者のやりたいことがあるんだものね。それにしても、マサキ達、私のことなんか、すっかり忘れているみたいね。ちょっと癪だなあ。でも、仕方ないわね。私達は、お茶かコーヒーを、飲んでのんびり待ちましょう」
「じゃあ、キッチンでお茶かコーヒー、探してみますわ」


部屋に入るなり、二人は固く抱き合い、口を激しく吸い合う。長い長い熱いキス。次に、ジャネットの上着とジーンズを脱がせ、乳房を腹をお尻を愛しげに触りまくり、キス、キス、キスの嵐。
「ジャネットの身体をこの手で触りキスすると、俺の大切なジャネットがここにいると、実感できるんだ。ジャネット、お願い。全裸になってベットに立ってポーズをとってくれないか。僕の結婚する女性の美しい肢体を、目にもう一度焼き付けておきたい」
裸のジャネットを長い間、じっと見つめる。画家の眼になっている。
「ジャネット、少し痩せたな。裸体の発散する色気が優しく穏かなものになってきている。生活が充実しているのが伝わってくる。うれしいよ。もうお母さんのところに戻ろう。セックスは今夜だ。激しく燃えるぞ」
「そうね。私も、燃えて、燃えて、燃え尽きるわ」
「ワーオ、愉しみだなあ」

「ケンジ、私の絵、見てくれる? お返しよ。ケンジの全裸像よ。私、ケンジに褒めてもらいたくて、ずっと絵を描いていたの。二人でふざけてお互いにヌードを描きあったでしょう。あのときのデッサンをを元にしてして、油絵に仕上げたの。描いているとき、ケンジの身体の隅々が精密に眼に浮かんできて切なかったわ。でも、幸せだった。これよ。見てくれる。全力をつぎ込んで描いたわ。私の今の実力。どう?」
ケンジ、壁に絵をかけて、いろいろな角度から、じっと眺める。
「すごい! ジャネット、腕をあげたなあ。驚いた。ひょっとしたら、俺なんかより、ずっと絵の才能があるかもしれないぞ」

「母さん、見てよ。ジャネットの絵。うまいだろう」
「ウワッ、お前の裸の絵かい。あれ、チンチンもはっきり描かれている。母さん、なんだか恥ずかしいよ。私、絵のこと、よくわからないけれど、惹き付けるものがあるわよね」
「だろう。ジャネット、ひょっとしたら、俺より才能があるかもしれない。うれしいけど、少しだけ悔しいんだよな」


マサキの身体を気づかって、アイアンが上になって乱れに乱れる。
3度の結合。3度の発射。マサキ、涙を流している。
「マサキ、どうしたの?」
「俺、ずっと、生きる気力を無くしていたんだ。こうして、またアイアンとセックスできるとは夢にも思わなかった。だから、うれしくて、うれしくて」
「マサキとセックスすることができて、私も最高よ! これから、マサキの面倒、私がずっとみていきたいわ」
「アイアンと抱き合ってセックスしていると、生きていく自信が沸いてくる。アイアンさえ、傍にいてくれれば、何でもできそうな気がする」
「うれしいわ。マサキ」

「アイアン、お願いだ。こんな身体になってしまったけれど、俺と結婚して、日本で親子3人で一緒に暮らしてくれないか」
「もちろん、私もそうしたいわ。でも、こんな私のこと、ご両親、どう考えているのかしら? ジャネットは強い反対にあったって、聞いているわ」
「それなら、心配なしだ。父も母も二人の結婚を強く願っているんだ」
「本当。うれしいわ。なんだか幸せ過ぎて怖いわ」

「母さん、グッド・ニュース。アイアンが一緒に日本に来てくれるそうだ」
「そうなの。アイアン、有難う! 私、毎日、孫の世話が焼けるのね。父さんも喜ぶわ」
「でも、ママ、私、ちゃんとした日本語、ほとんどできないわ。仕事を見つけるのも大変だと思う」
「しばらくは、赤ちゃんとマサキの世話をしていてくれれば、何もしなくていいのよ。日本語をまずは上達して。それから、余裕ができたら、お店を手伝ってくれれば、ありがたいわ」
「母さん、アイアンはヤル気が凄いから、1年もすれば実戦力になると思うよ」

「でも、アイアン、大学修了の資格、どうしても欲しかったんだよな。そちらの方はあきらめつくのかな?」
「あら、私、日本で仕事があって、マサキと赤ちゃんと一緒に生活できれば、大学の資格なんてどうでもいいわ。私に意地悪した親戚への面当てで欲しかっただけなんだから。動機が不純なの」
「生活が落ち着いて、余裕ができて、学ぶ気さえあれば、いつでも日本の大学に通えるわ。でも、アイアン、料亭の仕事、そんな甘いもんじゃないわよ。若女将として、私、外国人であることを抜きにして、厳しく鍛えるからね」
「はい、ママ、頑張ります」

「アイアンを日本に呼び寄せるビザ等の手続きを、早速、業者と算段してくるわ。お金の出し惜しみはしない。できる限りの超特急でやってもらうわ」
「母さん、そうしてくれる」
「ママ、お願いします」


ジイジは日本に帰っている。その期間、クリスは翔太の母親の家で生活していた。お陰で、ジイジとクリスの部屋をケンジとマサキの母が自由に使えた。
アイアンとジャネットが日本人の母親達の好みを戸惑いながらも想像し、心づくしの夕食を用意した。豪華に並んだ食卓。皆で騒いで食べれば、おいしさが倍増する。

翔太とクリスがワインを持って部屋に入ってくる。
「おばさん方、お久しぶりです」
「あら、翔太君。お元気そうね」
「翔太君、立派な青年になったわね。ヨーロッパ、放浪していたのよね。行方不明になったって、お母さん。一時期、凄く心配していたわよ」
「母に連絡せずにいて。申し訳ないことをしちゃいました」
「お母さん、元気にしてる?」
「元気、元気。相変わらず、元気だけは売るほどあります。今度、来るときには、是非、母の家にも泊まっていってください」
「そうね。そうしたいわ」

「そちらが、噂の可愛い恋人さんね」
「はい、クリスと言います。クリス、ご挨拶」
「クリスです。マサキとケンジのお母さん、よろしくお願いします」

「俺とアイアン、ケンジとジャネットは結婚して、それぞれの道を進むことになった。翔太とクリスはどうなんだ? 愛し合っているんだろ」
「もちろん。愛している」
「私もよ」
「でも、クリスはまだ15歳。法的に結婚は無理なんだ。俺達はは今すぐにでも、事実上の結婚をしてしまおうとも思ったが、ハイスクールを卒業してからにする。母がけじめとして、そう望んでいるんだ。だから、今も同じ家にはいるけど、同じ部屋では生活していないんだ。ベッドも別。泣けてきてしまうよな」
「翔太、お母さんが寝てから私の部屋にきてよ。抱き合って眠りたいの。お母さんも内心ではそう望んでいるようなところがあるわ」
「うん、そうしようかな」
by tsado18 | 2011-10-31 18:02 | 女達・それぞれの道