執筆が楽しくなってきただ。


by tsado18

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               ・・・・・・・・・・★1・・・・・・・・・・
空港から住所だけを頼りにやってきた。マニラ南部のラス・ピニャス。そこそこに高級な住宅地なんだ。大きな家が並んでいる。路上で犬のグルーミングをしていた人に教えてもらった家に、母が門の鉄柵越しに見えた。メイドに花の水遣りの指示を与えている。

大きな声をかけた。
「母さん、ただいま!」
母の動きが一瞬にして止まり、しばらく固まっている。やがてこちらへ向きを変え、泣きながら震えている。

「翔太! 翔太! 翔太! あんた!連絡も入れずに何していたのよ! 母さん、母さん、心配で、心配で、心配で・・・」
母は涙を拭こうともせず、泣き笑いしている。門の鍵を開けるやいなや俺に抱きついてきて、顔中にキス、キス、キス。キスの嵐。ああ、母さんの懐かしい甘やかな匂い。
「母さん、汚いよ。鼻水が出ている」
「本当に、本当に、この子ったら。この子ったら。この子ったら」

「御免なさい。東京の家の電話が繋がらなかったんだ。父さんが死んだの、ずっと知らなかった。2週間ほど前、香織の家に電話してやっと知ったんだ」
「ヨーロッパを旅すると言ってたけど、2年間に絵葉書たった3枚。どこをどううろついていたのよ。死んでいるんじゃないかと、心配してたのよ」
「死にそうな危険な目には確かに何度か合った。でも、この通りピンピンしている」

「母さんのいない日本に帰ってもしょうがないから、ローマから、直接、マニラに飛んで来たんだ」
「母さん。俺、お金、スッカラカン。しばらく食わせてもらうからね」
「どうせ、そんなことだろうと思ったよ。でも、ただで食わせるわけにはいかないよ。男向きの力仕事、わんさか溜まっているからね」
「まかせといて。小遣い、奮発してくれよ」
「フィリピンの相場で払うからね。安いよ。覚悟しといてね」

「でも、しばらく、翔太と暮らせるんだ。うれしいわ」
「今までの分も、親孝行するからね」
「嘘でも、うれしいわ」

「お腹、空いているんだろ。朝食、できたよ」
「母さん、これ、これ、これ。このハンバーグ。俺のお袋の味。これを食べると家に帰ったという気分になれるんだ。ここは紛れもなく俺の家なんだなあ」
「翔太、好きだったの、思い出してね。さっき、あわててこしらえたのよ」
「おいしい! これだったら、10個や20個、平気で食べられる」

「母さん、もう何歳になった」
「まだ43歳よ」
「それなら、新しい男、いくらでも見つかるだろ」
「そりゃ、この美貌とこのセクシーな肉体だもの。しょっちゅう声をかけられる。何度となく男達に誘われたわよ。いい男だと、気持ちもゆさぶられたわ。でも、父さんの1周忌が明けてから。翔太が無事に帰ってくるまではって、我慢していたんだから」
「もう我慢しなくていいからね。今度はうんと若い男にしろよ。俺よりも若くてもいいからな」
「バカ!」


               ・・・・・・・・・・★2・・・・・・・・・・
飛行機の中で友達になったフィリピン人のミュージシャンにマラテのライブハウスに招待され、一晩、愉快に飲んで騒いだ。10時過ぎ、外に出る。お袋にお金を借りるのを忘れ、財布の中にお金がほとんどないことに気がつく。どうやって帰ろう。思案しながら、アドリアティコの通りに沿って歩いていると、ディスコ「バージン・バージン」の前に、人だかり。

人垣の中を覗き込む。
一人の少女が少年達に囲まれている。寄ってたかって着衣を剥ぎ取られ素っ裸にされている。抵抗は何もしない。乳房を押さえてうずくまっている。
「クリス、御免な。ボスの命令なんだ」
「いつも、世話になっているのに悪い。でも、これをやらないと、俺達、オマンマの食いあげなんだ。お店からもおん出される」
「クリスも観念して、ボスに反抗するのは止めろよ。言う通り動いてくれ。頼む」
「お前ら。仕事、終わったんだろ。さっさと帰れよ」

同情はしているようだが、皆、関わりになるのを避けて、見ているだけ。始めは俺も傍観者として目の保養とばかり楽しんでいた。
でも、女の子をよく見ると、俺の好みピッタリ。
気の強そうな可愛い顔。透き通るような綺麗な肌。スレンダーな華奢な裸体。
眺めて見ているうちに、むらむらと衝動が湧いてきた。
何の衝動? 少女を犯したいとか、そんな類いのものじゃない。俺は、そのとき、その心の動きについて考えすらしなかった。
いつのまにか、誘われるように一番前に出ていた。


あたし、恥ずかしいという意識よりも、悔しくて悔しくて涙が出てきたわ。
この後、どう行動しようかということだけ考えていた。けど、何も浮かんでこないの。心底、困っていたわ。
突然、背の高い若者が、ぶっきらぼうに赤いTシャツを脱ぎ捨てて差し出してくれたの。
「これ、着ろよ」
うれしかったわ。こんな面倒に巻き込まれなくてもいいのに、お馬鹿さんね。
Tシャツ、私の膝小僧の上までの丈。ミニのワンピースを着ているような感じなの。助かったわ。同色のベルトが欲しいかなあ。そんなことを考えるまで、心に余裕が出ていたわ。あたしって、簡単にへこたれる女じゃなくてよ。


「てめえ、余計な真似するな」
兄貴分風を吹かして、ロイが若者に殴りかかったわ。でも、腹を蹴られて、l撃でKO。痛快、すっとしたわよ。他の少年達も気負い立って一斉に殴なぐりかかったの。でも、ノエルもリチャードもジョセフもアントニオも、あっという間に地面の上でのたうちまわっている。あっけない幕切れよ。皆、それなりにやんちゃしてきたから、そんなに弱い筈ないんだけどな。出てきた男が強過ぎるみたい。
男を改めて観察したわ。少し甘えた感じの整った顔立ち。胸にキューンと来るものがあったの。

「止めてぇ! この子達、ボスに命令されて仕方なくやっただけなの。そんなに悪い子達じゃないわ! やり過ぎよ!」
「大丈夫。本気でやってない。重い傷は負ってないはずだ」
「助けてもらったのに、ごめんなさい。ひどい言葉、吐いちゃって」
「これからどうするんだ。ここで、Tシャツ、返してもらうわけにいかないよな」
「パコの友達のところまで、タクシーで行くから、そこまで、つきあって。お願い」
「いいよ。今夜はもう帰るだけだから」

「ロイ。お財布、返せよ。服と靴は証拠品として、持っていっていいから」
「いてててぇ。わかった。クリス、御免な」
もう完全に戦意喪失している。


パコのアパート前でタクシーを降りて、ドアを叩いたわ。
「アイアン!、ジャネット! 開けてよ!」
返答なし。今度は、思いっきり足で蹴ったわ。気持ちを悟られまいとするパフォーマンスだったのかな。
「ちっ、いねぇや。腹立つな」
でも、本当はほっとしたの。何だろう、この妙な気持ち。
「嫌だ。置いてかないでよ。この辺、結構、物騒なんだもの」

30分もしないうちに、仕事を終えたジャネットが帰ってくるの分っているわ。でも、でも、この男とどうしても離れたくないの。今まで経験したことのない心の動き。戸惑ってしまったわ。

「ねえ、ねえ、私をどこかに連れてって。お願い!」
「どこかにと言われても困るな。俺、フィリピンに来たばっかりで何もわからないんだ」
「その辺の安いホテルにしけこみましょ。今夜は、君と一緒に抱き合っていたいの。あたし、普段は身体を売っているのよ」
「俺、女を買う金なんか持ってないよ」
「今夜は助けてもらったから、サービスするわ。あたしがお返しする番よ」
「お前、まだ15、6だろ。恋人いるんだったら、売春は止めろよ」
「そんなのいるわけねえだろ。弟や妹を食わすだけで手いっぱいなんだよ」
「そうか、御免」
「ねえ、ねえ、お願い。あたしを今夜だけは一人にしないで。寂しくて、寂しくて、眠れそうにないもの。きっと死にたくなっちゃうわ」
「一人でなきゃ、いいんだな。じゃあ、俺のママの家に行こう」
「ママの家? いいわよ。どこにあるの?」
「遠いんだ。ラス・ピニャスってとこだそうだ」
「あら、うれしい。あたしはパラニャーケ。同じ方向ね」
「でもよ、でもよ。ちょっと、まずいんだ。ちょっと・・・」
「あら、どうしたの?」
「実は・・・、実は・・・、実はよ・・。言い難いんだけど・・・」
「じれったいな。何なのよ。早く言えよ」
「実は、俺、金、全く持ってないんだ。悪い。タクシー代、貸してくれないか?」
「なあんだ。そんなこと。金、ないんなら、ないって、素直に言えばいいだろ。お互いさまなんだから。歯切れが悪いったらありゃしない」
「男には男のプライドっちゅうもんがある。お前みたいなガキに、金、貸してくれなんて頼めるか」
「なに、かっこつけてんだよ。ある者が出すのが当然だろ。それに、あたし、もうガキじゃないからね」

とにかく、この男と別れなくてすむのね。それにわりと近いところに住んでいるみたい。また会えそうよ。うれしいわ。なんだか希望が湧いてくるようでワクワクした気分。何だろう、この変な気持ち。別段、セックスがしたいってわけじゃないのよ。

「あたし、足、痛いと思ったら、裸足なんだね。ねえ、ねえ、タクシーのつかまるところまで、あたしを背負ってよ」
「ああ、いいよ」
「私のおっぱい、背中に当たってる?」
「ああ、当たってるよ」
「気持ちいい?」
「まあな」
「ねえ、ねえ、あたし、クリスっていうの。お兄さんは?」
「俺、翔太だ。なんでもいいけどよ。俺の耳に囁くように息を吹きかけるなよ」
「気持ちいい?」
「まあな」
「お兄さん、あたしのお尻、もっとしっかりつかんでよ」
「おい、おい、なんでもいいけどよ。お尻、あんまり動かすなよ。あそこが背中に当たるんだよ」
「気持ちいい?」
「まあな」
「なんでもいいけどよ。お前、オシッコ、漏らしてないか。背中が生温かいんだよ」
「変なの。あたし、漏らしちゃったみたい。ごめんな。うっとりして気持ちすんごくよかったんだ。で、あたしのオシッコ、気持ちいい?」
「アホ。いいわけないだろ。でも、ないか。なんだか気持ちがいいかも・・」
「クリス、お前。本当は、何歳なんだ?」
「15歳よ。お兄さんは?」
「もう22歳だ」
「なんでもいいけどよ。お前、何時から売春やっているんだ?」
「何でもよくねえよ。言いたくない!」
「恋人、いるんだったら、売春、やめろよ」
「しつこいな! 余計なお世話よ!」

あたし、ちょっと腹が立てたみたい。でも、それだけじゃないのよ。柄にもなく、おじさん達に抱かれていることが少し恥ずかしかったの。口が聞きたくなくて黙っていたら、いつの間にか眠っちゃったみたい。翔太の背中って、どこのベッドよりも安心できたの。

「おい、聴いとるか?」
「・・・・・」
「眠っちゃったんか。可愛いもんだ。やっぱり、まだガキだな。おい。おい、ヨダレ、垂らしていないか? 今度は首筋が生温かいぞ」
「・・・・・」
「オシッコ攻撃の次は、ヨダレ攻撃かよ。クリス、お前、本当は8歳くらいだろ」
「・・・・・」


優しいのよ、翔太って。
タクシーの中、翔太に抱きついてぐっすりで眠っていたみたい。裸の翔太の胸に頬ずりしていたのをぼんやり覚えているの。翔太の匂いもしっかり記憶してしまったわ。
ラス・ピニャスの翔太のママの家の近くに着いたときは、眼が覚めて生き返っていたわ。車を降りてから、また翔太に背負ってもらったの。なんだろう、このはしゃぎたい気分。

「ヒャッホー、走れ、走れ! どんどん、走れ! いいぞ、いいぞ。翔太! 行け! 行け! ヒャッホー」
「おい、もう真夜中だ。あんまり騒ぐな。近所迷惑だ」
「ヒャッホー、構うもんか。翔太! 行け! 行け!」


「母さん、ただいま」
「何よ、この騒ぎ。深夜よ。起こされたわよ」
「母さん、女の子一人、拾ってきちゃった」
「翔太! 嘘、つくな。お前、タクシー代なくって、あたしに拾われたんだろ!」
「てなわけで~す。母さん、この子、今夜、泊まらせてもらうよ」
「翔太のママ、よろしく! クリスで~す!」
「はい、はい、クリスちゃん、よろしくね。元気がいいのねえ」
「ママ、あたし、夜中になると、元気になるのよ」
「あらあら」

「泊まらせるって、お前の部屋に泊まるのかい?」
「そんなことしたら、俺、この子に襲われちゃうよ」
「あら、まあ」
「この子、普段は売春、やっているんだってさ。売春、やっている子。俺、ちょっと、怖くてな」
「そうね。お前、香織ちゃんのことがトラウマになっているんだよね」
「そう、俺の触れられたくないトラウマ」
「ねえ、ねえ、難しい言葉、使わないでよ。ママ、トラウマって、な~に?」
「心が傷つくことよ。翔太の昔の日本の彼女ね。香織ちゃんと言うんだけど、売春をやっててねえ。翔太、相当に傷ついちゃったの」
「そうか。それで、納得。翔太、あたしに恋人いるなら、売春、やめろって、しつこく言ったんだ」

「クリス、今夜は、お前はママの隣りのベッドで眠れ。一人ぼっちになるのは嫌なんだろ」
「わかった。でも、ママ、あたし、レスビアンもできるからね。よろしかったら、お相手するからね」
「おあいにく様、クリス。私、そういう趣味、全くないから」

「それにしても、翔太、お前、大変な女の子、拾ってきたのね」
「ママ、違うったら。翔太があたしに拾われたの」

「クリス、なんだか、すごくオシッコ臭いわ」
「ママ、あたし、普段、そういうことないのに、翔太の背中でオシッコ、漏らしちゃったの。興奮していたみたいなの」
「翔太のTシャツ以外、何も着ていないのね。不思議だわ」
「あたし、男の子達に襲われて、スッポンポンのところ、翔太に助けてもらったんだ。翔太って、すっごく強くて、すっごく格好よかったのよ」
「おお、おお、臭い。臭い。すぐシャワー、浴びておいで。2階の私の部屋にパンティーとパジャマ、用意しておくから」

二人、並んだベッドに入る。
「ねえ、ねえ、ママ、始めて会ったばかりのに、翔太と別れるのが嫌で、ついついここまで着いて来ちゃったの。そんなことって、ある?」
「クリス、それ、一目惚れっていうやつかもしれないよ。翔太、日本でも、結構、もててたのよ」
「ウワァ~、一目惚れ? 始めてなの、こんな気持ち。翔太を見ると、心が温かくなってしまうの。考えると、頭がボーとしてしまうの。私、怒りっぽいのに、翔太だとついつい許してしまうの」
「クリス、それって、かなりの重症よ」

「クリス、そのパジャマ、君くらいの頃の私のパジャマよ。不思議ねえ。そのパジャマ姿、昔、私の隣りの家に住んでいた子にそっくりなのよ。思い出しちゃうわ」
「ママ、私も不思議。その壁に貼ってある写真、あたしのママのアルバムの写真と同じ写真よ。パジャマを着た二人の女の子が肩を組んで笑っている写真よ」
「クリスのママ、小さい頃、どこに住んでいたの?」
「確か、パラニャーケのガッチャリアンとか言ってたわ」
「そして、君のママの名は、リサ・アンパロ」
「そうよ、リサ・アンパロよ。どうして知ってるの?」
「まさかよねえ。驚いたわ。クリスにそっくりな隣りの家の子って。あなたのママだったのよ」
「ウへ~」
「私、父親しかいなかったから、クリスのママのママ、クリスのおばあさんにはいつもすごく可愛がってもらっていたのよ。リサと姉妹のように育ったんだ。あの写真も、おそろいのパジャマを買ってもらったとき、クリスのママと二人で撮ったものなの」
「へえ~、私と翔太って、見えないところで、繋がっているんだ。運命の赤い糸を感じるわ。うれしい!」
「私、クリスのおばあさんには、いくら感謝してもしきれないほど。お世話になったのよ」
「クリス、このまま、うちの子になってもいいからね」
「そうなったら、翔太、私のお兄さんになっちゃう。困るな。セックスできなくなっちゃうもん。でも、毎日、一緒にいられるのね。それなら、それでもいいや。ママ、クリス、この家の子になるからね」

「リサとは引越ししてから、連絡、途絶えちゃったの。で、リサは、今、どこにいるの?」
「重い心臓病にかかって入院しているわ。ママの妹のコーラおばさんに、何時、天に召されても、不思議はないから、覚悟しておくようにって、言われているの」
「あら、大変。明日、私、早速、病院のリサのお見舞いに行ってくるわ」
「翔太のママ、あたしのママを元気づけてきてね」


「リサに会って、話をしてきたわよ。で、結論から先に言うと、クリスとウィルマとマウイの3人は、ママが退院できるまで私の家で引き取ることになったわ」
「本当! 最高!」
「私、すごく恩があるんだもの。それくらいしないとね。コーラは日本に行ってしまうんだってね。スクォーター地区の家は引き払うからね。忙しくなるぞ。4人の子の面倒をみなければならないのね」
「妹達も喜ぶわ。私達3人だけじゃ、不安だったの」
「リサの話だと、行儀も全然できていないらしいわね。自分の子供だと思って、ビシビシ鍛えるからね」
「はい。ママ。よろしくお願いします」
「学業第一でいくからね。クリスは学校、頑張ること。いいね」
「はい。ウィルマとマウイの二人はすぐにここに移らせる。でも、私、今、仲間とアドリアティコのマンションに住んでいるんだ。かたづけないといけないことがあるの。だから、すぐには引っ越せないからね」
「クリスはしばらく待っててあげる。でも、できる限り、顔を出すのよ」
「もちろんよ。2日に1度は翔太お兄さんの顔をみないと落ちつかないもの」
「それと、ハイスクールを出るまでは、翔太とセックス禁止よ。同じ家に住む兄弟みたいなもんだから、それがけじめよ。セックスしたくなったら、好きな他の男の子と外でするのよ。それと、おじさん達とセックスして、お小遣い稼ぐのも止めてほしいな」
「わかった。コーラおばさんにもそう言われているんだ。日本から仕送りが増えるし、もう止める。コーラおばさん、きついから反抗ばかりしていたけど、約束したんだ」
「月日の流れは速いわねえ。オシッコたらしてばかりいたあのチビのコーラがねえ・・・」
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by tsado18 | 2011-10-31 18:12 | 女達・それぞれの道
               ・・・・・・・・・・★3・・・・・・・・・・
産むことを決めたアイアン。精神的には落ち着いた。
が、引き続き肉体的な苦難が待ち受けていた。ひどい悪阻の襲来。あの快活で元気なアイアンが眉間に皺を寄せ必死に耐えている。ものを食べられず、吐き気を訴える。苦しそうにしているアイアンに、クリスもジャネットも戸惑うばかり。ジイジだけは妊娠が引き起こす身体の変化に、ある程度の知識と経験を持ち合わせていた。

「こんなつらい思いをするなんて、父親のいない子を産もうとする私に、神様が罰をお与えなさっているのね」
「アイアン、妊婦なら誰でも最初に経験する通過儀礼みたいなもの。後、2、3週たてば、おさまるから心配しなくていいんだよ。今は食べられるものだけを食べなさい。何かリクエストがあったら言って。ジイジ、買ってくるよ。生活とか将来のこととかを考えずに、お腹の中で育っている子供ことだけを考えて、好きな音楽でも聴いて、ゆったりとした気持ちで一日を過ごしていればいいんだ」
「はい、ジイジ、そうさせていただきます。ジイジは本当に優しいのね。私、また涙ぐんじゃったわ。私って、弱い人間だったのね」
「そんなことないよ。アイアンは優しくされることに弱いだけ。慣れていないのかな。つっぱって生きるだけでは、人生、半分も楽しめないよ」


「ジイジ、言いにくいんだけど。今、あたし、悩んじゃってるの。一人で悶えちゃっているの。ハアハア、息遣いも荒く、頑張っているんだけど、解決しないの」
「どうした。一人エッチでもしているのか?」
「いやだあ。いきたいときはジイジの力、借りるわよ。実は、実は、ウンチが1週間以上、出ていないの。お腹、パンパンよ。トイレで下腹に力を入れてウンウン粘ってみるんだけど、全然出てこないの。プスっとガスが出るだけ。どうすればいいの? ジイジ、すっきりしたいよ! 助けて!」
「ハハハ、今度は便秘の悩みか。今の時期はよくあるみたいだな」
「ああ、恥ずかしい。ジイジだから相談できるんだわ。でも、苦しくて苦しくて笑い事じゃないんだから」
「そう言えば、イチジク浣腸、何本か残っていたな。やってみるか?」
「浣腸? お尻の穴に刺すんだよな。かっこ悪いな」
「そんなことを言っている場合か?」
「やる。やる。やるよ。でも、クリスにだけは言うなよ。あいつ、面白がって、ケタケタ、笑うから」

「ジイジ、出た。出た。出た。今朝、久しぶりにちょろいバナナみたいなやつが出たの。感激したわ。少しだけ楽になった。浣腸、浣腸、浣腸様様よ。全部出し切ったら、凄い爽快感が味わえるんだろうな。ウンチを出し切ることが私の今の夢。ブリブリブリッ、ブリブリブリッ。黄色い液体を撒き散らしてお尻の下で爆発しないな」
「うへえ、アイアン、今、朝飯、食べようと思っていたところなんだ。それも、昨夜の残りのカレーライス。なんだか食欲が減退した」
「ごめん、ジイジ、気が回らないで。あたしってほんとがさつなんだよな。ジャネットにもう少し女性らしくしろっていつも注意されるんだ」
「アイアンの良いところでもあるんだけれどな」


「アイアンを見ていると、あたし、赤ちゃんを産むのが怖くなってきたわ」
「クリス、肉体的にはすごくつらいんだけれど、心の奥ではものすごい充実感があるのよ。あたしのお腹の中に、新しい生命(いのち)が宿っている、赤ちゃんが育っているって、実感できるの。生きていて本当に良かったわ」
「アイアン、男を虐げて、もて遊んで楽しんでいるときみたいな眼をしている」
「それも充実感あるけどよ。充実の質が全然違うんだよな。今の充実と比べたら、あんなの充実でも何でもねえよ」


ひどい悪阻もおさまり、アイアン、今は静かな日々を送っている。
ジイジの強い勧めで、出産まではお金のことで悩まないことにした。アイアンは頭の切り替えが速い。パトロンのジイジに徹底して甘えると決めたようだ。最近はジイジを恋人のような目をして見ている。信頼しきった男、そんな男が近くにいて見守ってくれている。

「アイアン、お腹の中の赤ちゃんのことを第一に考えて生活しなさい」
「ジイジ、あたし、赤ちゃんが生まれるまで、煙草を吸うこともお酒を飲むことも控える」
「成長したな。アイアン。あんなに欲望に貪欲だったのに。母になるって素晴らしいことだよな」

アイアン、外に出ることも少なくなり、ファミリールームで音楽をのんびりと聞いたりぼんやりと考え事をしたりしていることが多くなった。夢中になって読書している姿も見かける。


アイアン、ジイジのCDラックから取り出したクラシック音楽を静かに聴いている。音楽の好みも変わってきている。ジイジが外出していないことを確かめて、クリスは、アイアンを問い詰めた。

「アイアン、この前、ベッドの上で泣いたとき、『ジイジが本当のおじいさんなら良いのにって、ずっと、クリスのこと、妬いていたの!』って叫んでいた。あれ、どういう意味なの? あたし、ずっと考えていたんだ。私の中で一応結論は出た。ごまかすなよ。正直に答えろ」
「わかった。正直に言う。クリスが言い出すのを待っていたんだ」
「待って。あたしのたどりついた結論を先に言う」
「そうか。言ってみろ」
「ジイジはあたしの本当の日本のおじいさんなんだろ。ジイジとあたし、顔の作りに似ているところも多いものな」
「正解! やっと気がついたな。ごめんな。あたしもジャネットも知っていたけれど、ジイジに固く口止めされていたんだ」
「なんで、ジイジは、口止めしたのかな?」
「たぶん、ジイジはクリスが心を許してくれるのを待っていたみたいだな」
「あたし、薄々と気づいてはいたのよ。だから、ジイジと同じ部屋で寝ることも、あえて反対しなかった。逆に、ジイジが本当のおじいさんでなかったらと思うと、怖くなって今までアイアンに問いただせなかったの」 


母親になる女は、興味も生活も、変わってきている。クッキングブックとにらめっこしながら、料理も積極的にするようになった。今までほとんど料理をしたことなどなかったのに、アイアンは何をやらしても器用。料理のセンスもなかなかのもの。良い味を出してくる。食卓は急に豊かになった。クリスもジャネットも、アイアンを手伝ってキッチンで料理することが多くなった。
以前はバラバラに取っていた食事も、ジイジを中心に食卓に集まって、皆で食べるようになった。

「仕事をしなくても食べられるって、素敵なことね。毎日の時間を自由に使えるって素晴らしいことなのね。私、今、人生で一番リラックスした豊かな時間を過ごしているわ」
「ジイジ、私、こんなに集中して、本を読んだの始めてよ。素敵な面白い小説って、たくさんあるのね。一度読み始めても途中で止めなくていいって、最高の贅沢だわ。毎日が最高に充実しているの。大学で学んだ以上のものを学んでいるような気がするわ」
「アイアン、人生にはそういう時期が必要なんだ」
「働かなくて良いなんて、本当にありがたいことね。ジイジに感謝。感謝だわ。身体でたっぷりとお返ししたいのに、最近のジイジったら、淡泊よね。すぐに終わってしまうんだから」
「もう歳なんだ。あれで十二分に満足しているんだ」
「でも、なんだか申し訳なくって」
「おいしい料理を作ってくれているじゃないか。洗濯もしてくれているじゃないか。毎日、快適な生活を送ることができるのはアイアンのお陰だ」
「あたし、主婦になった気分だわ。ジイジが夫で、ジャネットとクリスは私の子供よ」
「アイアンお母さん、クリス、明日は、エビの天麩羅とマグロのサシミが食べた~い」
「ママ~、ジャネットは、おいしいチーズの入ったパスタがいい」
「ママはジイジが食べたいものだけ、リクエストにこたえるのよ。お前らのリクエストは一応聞いておくだけ。自分で勝手に作れ!」

ジイジから手ほどきを受け、アイアンはインターネットも楽しむようになった。必然、クリスやジャネットにも波及。ジイジは2台目を買わざるを得なくなった。若い3人は、あっという間に上達。最近はジイジが教えられている。


3人の生活がバラバラに廻り始めた。
クリスはハイスクールに朝早くから出掛ける。意欲的に勉学に取り組んでいる。
「男共、皆、私のご機嫌を取りにくるのよ。こっちは勉強に忙しいのにな」
「クリス、無意識に、まだやらせるオーラを振りまいているのかもな」
「あたし、あんなガキ共なんか、相手にしないわ。全く興味ないの。ちょっといいかなって思うのは、ロマンスグレーの歴史の先生だけ。少し色目使って鼻声で甘えた振りをしたら、すんごく優しいのよ」
「クリス、ほどほどにしておけよ」

ジャネットはマビニの高級クラブで働き始め、夜12時を回ってから帰ってくる。
暇さえあれば絵を描いている。素人眼にも急速に腕が上がっている。
「ジャネット、上手くなったな」
「私、ただただ、ケンジを驚かせたいの」
「恋の力って、すごいものなのね」
「最初はケンジがジャネットに首っ丈だった。けど、今は相思相愛って、感じだものな」
もう身体を売ることも止めた。ケンジのことを思うと、他の男に触わられるのに嫌悪感が沸くようになったそうだ。日本でお金を稼ぐことを考えて、マッサージの教習所に通っている。家での練習台は専らジイジ。
「ジャネット、うまくなったなあ。もうお金をとってもいいんじゃないか」
「アイアンたら、私の部屋で、長い間、ジイジにマッサージをしていると妬くのよ。これからはファミリールームでするようにする」
「アイアンのマッサージはチンチン専門だもんな。それはそれで最高に気持ちいいんだけど。 少し、範囲を広げるように指導してくれないかなあ。そうすれば、バランスがとれて、チンチンマッサージがもっと生きるような気がする」
「そうよね。周りからじっくり攻めて、最後に急所を一気呵成にだよね」
「グレース仕込みのアイアンの秘術、もう一段、レベル・アップしそうだな」
「私も、ケンジのためにアイアンからチンチンマッサージを少し習っておこうかな」
「ケンジは当分必要ないよ。若いんだもの」


「ジャコ殿、賭けのこと、お忘れになってござらぬよな。私、不肖内野忠雄、通称ジイジ。アイアン嬢をベッドの上でお泣かしさしあげ候」
「ふん、何が候だ。フニャチンで早漏のくせに」
「ま、なんとでも言え。宿敵アイアン姫を余のベッドの上にて完膚なきまで泣かせたんじゃ。確かな証人もござる」
「らしいな。クリスもジャネットもショックだったみたいだ。私とコーラに口角に泡を飛ばして夢中で話してきた」
「そうじゃ、完勝だった」
「やられたと思った。俺も男だ。潔く負けは認めよう」
「で、今度の日曜日、ロビンソンのフッドコートで、日本に行くコーラとジーナとその付録の男のサヨナラ・パーティーを開くことにあいなった。そのときの余興のメイン・イベントして、負けの約束を実行してもらう」
「わかった。演歌を歌うんだったよな。ジイジを立てて、北島サブチャンの『兄弟仁義』を熱唱するよ。あっ、悪い。ジイジ、立たなかったんだ」
「演歌だけじゃない! バクラの格好でロビンソンを手をヒラヒラさせシャナリシャナリと歩き回り、通りかかった皆々様に愛想を振りまくんじゃよ。顔は厚化粧してマスカラだ。ミスカートをはいてもらう。化粧担当は絵の腕を上げたジャネット。衣装担当はクリス。近所のバクラから大型サイズを借りるそうだ。二人とも張り切っているぞ。皆、面白がって期待してるぞ。後ろをついてまわるんだそうだ。演歌の後にはコーラ親子よる花束贈呈も段取りつけてあるからな」
「可哀想だろ。コーラとジーナは関係ない」
「でも、ないんだよな。コーラが一番面白がって協力的なんだ。写真撮影担当に快く就任してくれた」
「・・・・・・」


「ジイジ、アイアンに白状させたわ。ジイジはあたしの本当のおじいさんだったのね。あたし、それを聞いてうれしくて、うれしくて、泣いてしまったわ。だって、私、日本におじいさんがいるなんて全然知らなかったんだもの」
「クリス、ゴメンな。まだおじいさんと名乗る心の準備ができていなかった。クリスのママにはひどく憎まれているし、クリスにも誤解されて嫌われそうな気がしていんだ。血の繋がっている肉親のクリス。絶対に失いたくなかったんだ」

「ジイジ、ママは、パパの家族のことを何も話してくれなかったのよ。だから、あたし、ジイジの存在なんか、全く意識したこと、なかったの。ママはどうして話してくれなかったのかな?」
「クリス、それは全面的にジイジに責任があるんだ。ママは、結婚に反対したジイジのことをひどく憎んでいて許さなかったんだ」
「ジイジだけが悪いんじゃないと思う。私、ママの悪いところも十分に理解しているから」
「有難う、クリス。そう言われるとほっとする」

「ジイジ、私、小さい頃の優しいパパしか覚えていないの。パパって、日本ではどんな生活をしていたの?」
「パパはとても幸せだったよ。亡くなる前には素晴らしい恋をしていた。そして、恋した相手に女の子を産ませた」
「ママも、他の男達とよろしくやっていたから、おあいこね」
「その子。マサミという名前なんだ。クリスの妹になるだよな。パパが亡くなってから生まれたんだ。で、クリス、ショックを受けないで聞いて欲しいんだ。マサミの母親って、ステファニーなんだ」
「あら、何も驚かないわ。パパとママの間が冷たくなってから、子供心にも、ステファニーおばさんがパパのことを愛しているんだって、なんとなくわかっていたの。ステファニーおばさん、パパに会うために日本に行ったんだと思ってたもの。だから、それを聞いてうれしいくらいよ。日本に私の妹がいるんだ。興奮するなあ。で、その子、元気にしているの?」
「ああ、元気だよ。とても可愛い子だ。東京の家でステファニーが一生懸命に育てている。クリス、今度、マサミとステファニーおばさんに会いに東京に行かないとな」
「ワーオ! 今から胸がドキドキするな」


クリスとジイジ、一緒に暮らすことで、今までの分も取り戻す最高の凝縮した時間を過ごすことになった。

クリスは頭の良い子だけれど、常識的に振る舞いたがらないところがある。エキセントリックで激しいところがときどき露出してしまう。この辺は母親似なのかな。一つ一つ丁寧に導いていかないと危険だな。でも、クリスと同じ部屋で生活しクリスと心を通い合わせることができた。妻や息子への罪の意識から幾分かでも自由になることができそうな気がしている。

何でも話すことのできるジイジの存在は大きいわ。心から信じることができるって素晴らしいことなのね。どんなに甘えても、どんなに無理を言っても、ジイジは温かく包み込んで優しく接してくれる。ママへ対する引け目もいつのまにか感じなくなったわ。ママから自由になることができたみたい。


「ジイジ、普段から疑問に思っていること、いくつか、質問してもいい?」
「もちろん。おじいさんとして真面目に答えるよ」

「ジイジ、売春はいけないことなの?」
「そのことに、しっかりした結論が出ていなかったので、クリスにおじいさんだと名乗れなかったところもあるんだ。ジイジは頭っから、売春は悪いことだと思い込んでいた。だから、始めてクリスが身体を売っているということを聞いたとき、ショックで寝込んでしまった。何日も食事が喉を通らなかった。それで、何故、いけないことなのか、考え付く理由をすべて考えてみた。でも、どれもこれも根拠のある、確実な理由にならなかったんだ」
「売春、それ自体は悪いことじゃないと思う。でも、法律で売春が禁止されている国では、他の生活手段があるなら、できるだけしない方がいいんじゃないかな。売春は悪だと社会的風潮ができあがっているところでは、敢えて、それに逆らってまで売春をする必要があるかどうかよく考えてみる必要があるな。今のジイジには、そんな程度のことしか言えない」
「今なら、クリスに言える。売春でしか生活することができないなら、それはそれで仕方のないこと。自分を責める必要はないんだよ」

「男と女が愛するって、セックスをすることじゃないの?」
「それは違うな。愛がなくてもセックスはできるだろ。普通は、男と女が愛し始めると、キスも、セックスもしたくなっていくんだよ。逆にセックスをすれば愛が芽生えるわけじゃない」
「でも、クリス、そういう場合もあるような気がするんだけど」
「そうだなあ。クリスは鋭い。実践派なのかな。愛とセックスは平行に存在すると言い直した方がいいかもしれないな」
「クリス、おじいさんとしての希望を言わせてほしい。今は身体を売らなくても食べられるのだから、本当に好きな男の人が現れるまで、心からセックスがしたくなる人が現れるまで、セックスを控えることを奨めるな。クリスは、仕事が仕事だったから、セックスを。雑に扱っていたような気がするんだ。クリスには、燃えるような真剣な恋をしてもらいたいんだ」

「ママは闘ってると言っているけど、何をしているの?」
「ママのことについては、ジイジもよくわからない。フィリピンという国の富の偏りを憂いて、その不公平を是正しようと考えていたんじゃないかな」
「何故、世の中、不公平なの?」
「それは、ジイジにもわからない。クリスがこれから生きていく中でその答えを見つけてほしいな」

「パパとママはどうして別れたの?」
「男と女は、好きになったり嫌いになったりするもんなんだ。推測だけど、政治にどんどんのめり込んでいく激しい気性のママに、どちらかというと温和な性格のパパがついていけなくなったんじゃないかな」

「じゃあ、今度はジイジの質問。クリスはどうして売春をするようになったんだ?」
「ママが売春してお金を稼いでいるのを知ったとき、すごいショックだった。ママが倒れたとき、ママの病院代、弟や妹達の食費を作るため、怖かったけれど、ママと同じことをして稼がなければならないと思ったの。それが義務だと思ったの」
「クリス、もう、ジイジがいるんだ。生活費は十分に出せる。もう身体を売ることは止めて欲しいな。おじいさんとしての希望だけど」
「わかった。友達がいるから、今までのこともあり、すぐに止めるとはいかないけれど、止めていくわ。おじいさんを悲しませたくないもの」
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by tsado18 | 2011-10-31 18:07 | 女達・それぞれの道
               ・・・・・・・・・・★4・・・・・・・・・・
「おばさん、お久しぶりです。マサキ、大事故を起こし、死ぬところだったなんて、全然、知りませんでした。気がつかずにごめんなさい。知っていたらすぐ駆けつけたんですけど」
「あら、良いのよ。来ていただいても、面会謝絶状態だったから何もできなかったわ。私達も気が動転していて、あなた達に知らせる余裕なんか全くなかったんだから」
「母の話ですと、車椅子生活になってしまったとか」
「あの明るいマサキが、すっかり変わってしまったわ。ずっと心を閉ざしているの。何も話してくれないわ」
「リハビリを始めているんですか?」
「ええ、でも、まったくやる気がないの」


「ケンジ君、フィリピンの女の人と結婚するんだって?」
「お袋から聞いたんですか? どうせばれることだから、先に言っておきます。結婚する女性、マニラの売春婦だったんです。お袋、それがひっかかっていて、いまだに結婚を止めるように僕を説得するんです。一度会ってくれれば、絶対に気にいってくれる自信はあるんですが」
「女性恐怖症の昔のケンジ君を思い出すと、信じられないわ。よほど優しくて素敵な女性なのね」
「ええ、最高に素敵な女性です。彼女のことを思うと、僕、何でもやり遂げることができそうな気持ちになるんです。ごめんなさい。マサキのことも考えずに、こんなこと、言っちゃって」
「いいのよ。おめでとう。今となっては、マサキが彼女を作って結婚するなんてこと。もう夢の夢になっちゃったわ。情けなくて涙が出てしまう」
「おばさん、ごめんなさい。僕だけ、幸せになって。けど、けど、よけいなことかもしれないけど、マサキもフィリピンに付き合っている彼女がいるんですよ。いけない、口止めされていたのに。マサキに怒られるな」
「本当。本当なの、ケンジ君。その子のこと、もう少し詳しく、おばさんに話してくれない?」
「ケンジも、僕の彼女の友達と付き合っていたんです。すごく綺麗で素敵な人です」
「その人も売春婦?」
「そうです。でも、大学生でもあるんですよ」
「おばさん、売春婦に対して君のお母さんのように偏見は持ってないわ。安心してなんでも話して」
「ジャネットが電話で言うには、その子が妊娠したんだって。すいません。ジャネットって僕の結婚する女性です」
「で、そのマサキの彼女のお腹に入っている子、マサキの子なんだそうです。産む決心をして、お腹の中で順調に育っているんだって。マサキに迷惑がかからないように、シングルマザーになって育てるんだそうです」
「ケンジ君! その話、本当!」
「嘘を言うわけありませんよ。ジャネットから、あれじゃ、あまりにも可哀そうだから、マサキにそっと伝えて、と頼まれているんです。その前におばさんに言ってしまったけど」
「ありがとう。ケンジ君、ありがとう。本当にありがとう。涙がでてきたわ。早速、その子に会いに行かなくちゃ。ケンジ君、お願い。休みが取れ次第、私と一緒に、マニラに行ってくれない? 費用は全部、おばさんが持つから」
「いいですけど。でも、おばさん、お願いです。マサキの彼女に少し援助してやってください」
「もちろんよ!」


「蛙の子は蛙よね。あなた、玉の井の娼婦だった私に惚れて惚れて、結婚してくれなければ死ぬなんて脅したのよね」
「お前と一緒になることができて、仕事にもやる気が出て、つぶれかけていた親父の料亭を、新橋の一流料亭と言われるまでにすることができた。これも、女将としての、お前の人柄、手腕によるところが大きい。感謝しているよ」
「あら、嫌だ。あなたの作る料理がおいしいからよ」
「だから、マサキの相手が娼婦だろうが、俺は少しも気にしないよ。明るくて、人柄のいい子であることを祈るばかりだ」
「私、来週、ケンジ君と一緒にマニラに飛んで、その子に会ってこようと思うんですけど」
「その子はその子で一生懸命考えて生きているはずだ。けして自分の思いだけを優先させて先走らないようにな。性急さがお前の悪い癖だ」
「はい、はい、耳にタコができていますわ」


「ゴメン。マサキ、お前が怪我したの、今までずっと知らないで」
「いいって、ことよ。それより、お前、ジャネットとはうまくいっているのか?」
「しぶっていた親から、家を出ると脅して、なんとか結婚の承諾を取ることできた。これから結婚式をあげ、なるべく早く日本に呼びよせようと、思うんだ。その準備に、来週、マニラに行ってくる」

「マサキ、お前、アイアンと、連絡、取ってるのか?」
「いや、こんな身体になってしまったんだ。取れるわけないだろ」
「アイアンは振られたと思い込んでいるそうだ。気が強くプライドの高い女性だから、面には出さないんだって。けど、ずっと落ち込んでいるみたいだぞ」
「早く俺のこと、忘れて、いい男を探すように言ってくれ」
「ふざけるな。マサキ! アイアンの身体の中にお前の子供が育っているんだ!」
「本当か! そういえば、コンドーム、使うのが嫌で、外出ししてたんだった。どうしよう。生まれてくる子に会いたい。でも、俺のこと、知ったら、中絶するかもしれないな」
「馬鹿やろう! アイアンを見損なうな。昨夜の電話だと、その子を無事出産したそうだ。そして、シングルマザーになって、その子を育てるつもりになっているんだそうだ」
「うれしい! 魂が震えるようにうれしい! 涙が出てきた」
「ジャネットから、マサキに伝えてくれと言われたんだ」
「アイアンに、おめでとうと言ってくれ。ケンジ、俺、どうしたらいいんだ。わからなくなってきた」
「お前、自分の中に逃げ込んでいないで、責任を取る必要があるな」
「責任を取るといっても、こんな身体の俺に何ができるんだ。できることがあったら、何でもするよ」
「お前の家、裕福だ。いろんな責任の取り方があるだろ。それよりも、アイアンと一度、じっくり話し合ってみなければいけないな」
「そうだな。お袋にも相談してみるよ」
「ごめん。マサキ、おばさんに、さっき、ポロリと漏らしちゃったんだ。俺もなんとかしたくて、ついつい漏らしちゃったんだ」
「アイアンを振るなんて気持ちはこれっぽっちもなかった。いろいろ忙しくて連絡できなかっただけだ。そして、このザマ。死にそうになっていたとき、ずっとずっとアイアンの顔が思い浮かんでいたんだ。夢の中のアイアンが俺を励ましてくれていた。アイアンのこと、本当に好きなんだとわかったんだ。今は、アイアンのことを思うときだけ、気持ちが明るくなる。生きる気力が沸いてくるんだ」
「マサキ、アイアンの性格、よく知っているだろ。アイアンはお前に振られたと思って、無理して突っ張っている。お腹の子を認知だけはしてやれよ。できるなら、結婚した方がいいんじゃないか」
「もちろん、俺もそうしたい。でも、こんな身体になった俺と、アイアン、結婚してくれると思うか?」
「アイアンに気持ちをぶつけるほかないな」


「マサキ、ケンジ君から、マニラのお前の彼女のこと、しつこく聞き出しちゃった。アイアンって言うんだってね。で、母さん、来週、マニラに行こうと思うんだ。お前も行かないかい?」
「もちろん、行くよ。俺、アイアンと話し合わねばならないこと、たくさんあるんだ」
「母さんとしては、そのアイアンという子と結婚してもらいたんだ」
「俺もそうしたい。でも、俺のこんな姿みたら、結婚してくれるかどうか心配だ」
「お前の車椅子姿を見て気が変わるような子だったら、母さんは結婚に反対だね。始めからお前のことなんか愛してなんかいなかったんだよ。あきらめな。でも、お金をたっぷり積んで、子供だけは何としてもいただくわ」
「母さん、アイアンはそんな話に乗るほど無責任な女性じゃない!」
「じゃあ、問題なしよね」
「でも、母さん、その子、ずっと身体を売っていたんだ。ケンジの彼女と一緒、売春婦だったんだ。それでもいいかな」
「いいも悪いもないよ。ずっとお前達に秘密にしていたんだけど、母さん、父さんと一緒になる前は、東京の玉の井というところで娼婦だったのよ。その子にも、いろいろと事情があったんだろ」
「母さん、アイアンの気持ちがわかるんだ。アイアン、聞いたら、喜ぶな」
「どうかなあ。時代も、国も、違うよね。ただ一つ、偏見だけは持ってないからね」



               ・・・・・・・・・・★5・・・・・・・・・・
アイアンが、ソファーに座り、上着のボタンを外して、生まれてきた赤ん坊に、幸せそうに授乳している。

「ウン、ウン」
「え~、本当?」
「わかった」
「ハイ、ハイ、いいわよ」
「ワァ~、うれしい!」
「ケンジ、愛してる! じゃあね、バイバイ、明日ね」
ジャネットが弾むような声で電話している。いいな。羨ましいな。でも、ジャネットのこと、喜んでやらないとな。私はこの子としっかりと明るく生きていくていくんだから。赤ちゃんの顔をみていると、勇気が湧いてくるの。なんだかそんな生き方、できそうな気もしているの。

「アイアン、私、うれしくて、うれしくて。明日、ケンジとケンジのお母さんがここに来るんだって」
「よかったな。いよいよ結婚秒読みだ」
「それどころじゃないわよ。アイアン、心を落ち着けて聞いて! いいかい、よ~くよ~く心を落ち着けて聞くのよ!」
「何だよ。前置きが長すぎる」
「マサキが電話をかけてこなかったのは、大変な事情があったのよ。マサキ、車で大事故を起こして死ぬところだったんだって。今は、半身不随で、車椅子の生活になっちゃっているそうよ」
「ヒエェ~、神様! 助けて! でも、でも、まだ生きているのよね。よかった!」
「それでね。ケンジ達と一緒に、マサキとマサキのお母さんも、明日、マニラに来るんだって」
「ヒエェ~、わけがわからなくなっちゃった。マサキ、身体、大丈夫なのかな」
「それで、マサキがアイアンと話をしたいんだって。30分後に電話かけてくるって」
「ヒエェ~、私、身体が震えてきている。ジャネット、私の手を握っていて!」


「アイアン、マサキだ。久しぶり。元気か?」
「マサキ。マサキ。マサキ。本当にマサキだよね。元気よ。マサキ、聞いて。マサキの赤ちゃん、生まれたの。今、大きな声で泣いている。聞こえる?」
「聞こえているよ。最高にうれしい。でも、俺、事故で傷害者になっちゃったんだ。車椅子の生活をしている」
「だから、何よ。私がマサキを愛していることには変わりないわ。マサキが生きているんだもの、神様に感謝よ」
「有難う、アイアン。明日、マニラにいくこと、聞いただろ。そのとき、ゆっくり今後のことを話し合おう」
「わかったわ」
「愛してるよ、アイアン」
「マサキ、私もよ。愛してる! 愛してる! 愛してる!」
アイアン、涙をボロボロ流しながら、受話器を置く。
「ウワァ~ン。私、ずっとずっと、マサキのこと、お世話して、守ってあげる。ウワァ~ン。だって、だって、私が始めて心から愛した男なんだもの!。この子のパパなんだもの! ウワァ~ン。ウワァ~ン。ジャネット、私、シングル・マザーにならなくていいかもしれないね」
「そうだね。アイアン」


             ・・・・・・・・★6・・・・・・・・
翌日の昼過ぎ。外は真昼の陽光がカンカンと照りつけている。室内はクーラーがフル操業。観葉植物の緑が浮き立つ二人の眼に鮮やか。
ジャネットもアイアンもそわそわ。少しも落ち着かない。
「飛行機の時間からすればそろそろ到着よね」
「あたし、興奮して、昨夜から一睡もできてないの。目が腫れぼったくない? マサキに変な顔、見られたくないわ」
「大丈夫よ。アイアン。とっても綺麗。輝いているわ」

ファミリールームに、ケンジとケンジの母親、マサキとマサキの母親が入ってくる。
車椅子のマサキと、赤ちゃんを抱いたアイアンが、じっと見詰め合う。二人の瞳から大粒の涙が次々と流れ出して止らない。
「マサキ、会いたかった・・」
「アイアン、俺も会いたかった・・」
マサキの母親がアイアンの腕から赤ちゃんを抱き取る。アイアン、マサキの首っ玉に抱きつき、熱い、熱いキス。息をついで、また熱い、熱いキス。さらに息をついで、熱い、熱いキス。
「あたし、赤ちゃん、産むとき、マサキのことばかり考えていたの」
「俺も、死にそうなとき、アイアンのことばかり思い出していたんだ」
涙を拭こうともせず、また、熱い、熱いキス。

「何よ、この子達ったら。恥ずかしげもなく。人に見せるものじゃないでしょ」
「おばさん、いいじゃないですか。二人ともつらい思いを乗り越えてやっと会えたんだもの。なんだか、俺まで泣きたくなっちゃった」
「ケンジ君、おばさんもよ」
ケンジとジャネット、お互いの腰に手をしっかり回し、頬を寄せ合って、うっすら涙を滲ませて微笑んで見守っている。
「ジャネット、俺にも熱いキスしてくれよ」
「恥ずかしいわ。お母さんが見ている」
「俺、我慢できないよ」
「二人きりになったとき、たくさん、たくさんしてあげるわ」

「マサキ、汗かいているわね。シャワーに入ろう。私、洗ってあげる」
アイアン、マサキの服を脱がせ、自分も下着姿になって、マサキを支えながら、バスルームに二人して消える。シャワーの音とヒソヒソ話。30分過ぎても、出てこない。
「二人で何してるんだろうね。マサキ、私には、下半身、絶対に洗わせなかったのよ。赤ちゃん、もうお腹すかしているわ」
非難めいた言葉とは裏腹に顔が笑っている。
「今時の若い子ははしたないんだから。中で赤面するようなことをしているんだろうな。でも、でも、とてもうれしい。マサキが生きる気力を取り戻してくれているんだもの」

ジャネットと堅く抱き合っていたケンジ、思いだしたように、母の方を向く。
「母さん、こちら、ジャネット。仲良くしてよ」
「じゃネット、よろしくね。可愛らしい子ね。ケンジが惚れるのも無理ないな」
「ママ、はじめてまして。よろしくお願いします。あっ、ママって呼んでいいですか?」
「もちろん、いいわよ」
「ママ、私、日本でも稼げるように、マサージ、習ってきたの。よろしかったら、私のマッサージ、受けていただけませんか」
「あら、うれしいわ。でも、後でいい。今すぐに、二人でしたいこと、あるんでしょ」
「そうそう。母さん、俺とジャネット、部屋で二人だけの大事な話があるんだ」
「はいはい、とっとと消えなさい。マサキさん達と同じようなことしたいんだろ。とりあえず30分くらいよ。残りは今夜にとっておくのよ」
「母さん。有難う。ジャネット、行こう」

「母親、二人が取り残されちゃったわね。まあ、若い者には若い者のやりたいことがあるんだものね。それにしても、マサキ達、私のことなんか、すっかり忘れているみたいね。ちょっと癪だなあ。でも、仕方ないわね。私達は、お茶かコーヒーを、飲んでのんびり待ちましょう」
「じゃあ、キッチンでお茶かコーヒー、探してみますわ」


部屋に入るなり、二人は固く抱き合い、口を激しく吸い合う。長い長い熱いキス。次に、ジャネットの上着とジーンズを脱がせ、乳房を腹をお尻を愛しげに触りまくり、キス、キス、キスの嵐。
「ジャネットの身体をこの手で触りキスすると、俺の大切なジャネットがここにいると、実感できるんだ。ジャネット、お願い。全裸になってベットに立ってポーズをとってくれないか。僕の結婚する女性の美しい肢体を、目にもう一度焼き付けておきたい」
裸のジャネットを長い間、じっと見つめる。画家の眼になっている。
「ジャネット、少し痩せたな。裸体の発散する色気が優しく穏かなものになってきている。生活が充実しているのが伝わってくる。うれしいよ。もうお母さんのところに戻ろう。セックスは今夜だ。激しく燃えるぞ」
「そうね。私も、燃えて、燃えて、燃え尽きるわ」
「ワーオ、愉しみだなあ」

「ケンジ、私の絵、見てくれる? お返しよ。ケンジの全裸像よ。私、ケンジに褒めてもらいたくて、ずっと絵を描いていたの。二人でふざけてお互いにヌードを描きあったでしょう。あのときのデッサンをを元にしてして、油絵に仕上げたの。描いているとき、ケンジの身体の隅々が精密に眼に浮かんできて切なかったわ。でも、幸せだった。これよ。見てくれる。全力をつぎ込んで描いたわ。私の今の実力。どう?」
ケンジ、壁に絵をかけて、いろいろな角度から、じっと眺める。
「すごい! ジャネット、腕をあげたなあ。驚いた。ひょっとしたら、俺なんかより、ずっと絵の才能があるかもしれないぞ」

「母さん、見てよ。ジャネットの絵。うまいだろう」
「ウワッ、お前の裸の絵かい。あれ、チンチンもはっきり描かれている。母さん、なんだか恥ずかしいよ。私、絵のこと、よくわからないけれど、惹き付けるものがあるわよね」
「だろう。ジャネット、ひょっとしたら、俺より才能があるかもしれない。うれしいけど、少しだけ悔しいんだよな」


マサキの身体を気づかって、アイアンが上になって乱れに乱れる。
3度の結合。3度の発射。マサキ、涙を流している。
「マサキ、どうしたの?」
「俺、ずっと、生きる気力を無くしていたんだ。こうして、またアイアンとセックスできるとは夢にも思わなかった。だから、うれしくて、うれしくて」
「マサキとセックスすることができて、私も最高よ! これから、マサキの面倒、私がずっとみていきたいわ」
「アイアンと抱き合ってセックスしていると、生きていく自信が沸いてくる。アイアンさえ、傍にいてくれれば、何でもできそうな気がする」
「うれしいわ。マサキ」

「アイアン、お願いだ。こんな身体になってしまったけれど、俺と結婚して、日本で親子3人で一緒に暮らしてくれないか」
「もちろん、私もそうしたいわ。でも、こんな私のこと、ご両親、どう考えているのかしら? ジャネットは強い反対にあったって、聞いているわ」
「それなら、心配なしだ。父も母も二人の結婚を強く願っているんだ」
「本当。うれしいわ。なんだか幸せ過ぎて怖いわ」

「母さん、グッド・ニュース。アイアンが一緒に日本に来てくれるそうだ」
「そうなの。アイアン、有難う! 私、毎日、孫の世話が焼けるのね。父さんも喜ぶわ」
「でも、ママ、私、ちゃんとした日本語、ほとんどできないわ。仕事を見つけるのも大変だと思う」
「しばらくは、赤ちゃんとマサキの世話をしていてくれれば、何もしなくていいのよ。日本語をまずは上達して。それから、余裕ができたら、お店を手伝ってくれれば、ありがたいわ」
「母さん、アイアンはヤル気が凄いから、1年もすれば実戦力になると思うよ」

「でも、アイアン、大学修了の資格、どうしても欲しかったんだよな。そちらの方はあきらめつくのかな?」
「あら、私、日本で仕事があって、マサキと赤ちゃんと一緒に生活できれば、大学の資格なんてどうでもいいわ。私に意地悪した親戚への面当てで欲しかっただけなんだから。動機が不純なの」
「生活が落ち着いて、余裕ができて、学ぶ気さえあれば、いつでも日本の大学に通えるわ。でも、アイアン、料亭の仕事、そんな甘いもんじゃないわよ。若女将として、私、外国人であることを抜きにして、厳しく鍛えるからね」
「はい、ママ、頑張ります」

「アイアンを日本に呼び寄せるビザ等の手続きを、早速、業者と算段してくるわ。お金の出し惜しみはしない。できる限りの超特急でやってもらうわ」
「母さん、そうしてくれる」
「ママ、お願いします」


ジイジは日本に帰っている。その期間、クリスは翔太の母親の家で生活していた。お陰で、ジイジとクリスの部屋をケンジとマサキの母が自由に使えた。
アイアンとジャネットが日本人の母親達の好みを戸惑いながらも想像し、心づくしの夕食を用意した。豪華に並んだ食卓。皆で騒いで食べれば、おいしさが倍増する。

翔太とクリスがワインを持って部屋に入ってくる。
「おばさん方、お久しぶりです」
「あら、翔太君。お元気そうね」
「翔太君、立派な青年になったわね。ヨーロッパ、放浪していたのよね。行方不明になったって、お母さん。一時期、凄く心配していたわよ」
「母に連絡せずにいて。申し訳ないことをしちゃいました」
「お母さん、元気にしてる?」
「元気、元気。相変わらず、元気だけは売るほどあります。今度、来るときには、是非、母の家にも泊まっていってください」
「そうね。そうしたいわ」

「そちらが、噂の可愛い恋人さんね」
「はい、クリスと言います。クリス、ご挨拶」
「クリスです。マサキとケンジのお母さん、よろしくお願いします」

「俺とアイアン、ケンジとジャネットは結婚して、それぞれの道を進むことになった。翔太とクリスはどうなんだ? 愛し合っているんだろ」
「もちろん。愛している」
「私もよ」
「でも、クリスはまだ15歳。法的に結婚は無理なんだ。俺達はは今すぐにでも、事実上の結婚をしてしまおうとも思ったが、ハイスクールを卒業してからにする。母がけじめとして、そう望んでいるんだ。だから、今も同じ家にはいるけど、同じ部屋では生活していないんだ。ベッドも別。泣けてきてしまうよな」
「翔太、お母さんが寝てから私の部屋にきてよ。抱き合って眠りたいの。お母さんも内心ではそう望んでいるようなところがあるわ」
「うん、そうしようかな」
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by tsado18 | 2011-10-31 18:02 | 女達・それぞれの道
               ・・・・・・・・★7・・・・・・・
わけのわからないうちに動き出した日本の新生活。
マサキの家のお店、新橋の老舗料亭「里むら」というところだったの。
とんでもないところに来てしまったというのが率直な感想よ。根性だけは自信があったのに、仕事の面では何もできない私が情けなくなったわ。

家は日本食のレストランだと、マサキに聞いていた。軽い気持ちでフィリピンのレストランをイメージしていたの。私にもお運びをするとか、何か手伝えそうだなと漠然と考えていたの。大はずれだったわ。
料亭というは、日本料理を出す高級飲食店だったの。
日本文化に育まれてきた格式と伝統を重んじるお店。日本庭園まであるのよ。お客は政治家、大企業の経営者や重役、財界人ら。いわゆるお偉いさん方が接待や会合に利用していたんだって。過去形で語ったんだけど、ちゃんと意味があるのよ。
閉ざされた空間としてそれなりにやってこられたんだけれども、バブル崩壊以後、官官接待、企業間接待、政財界人の利用が激減し、状況が一変したんだって。
旧来のスタイルを変え、利用しやすい価格帯に料金を落としたり、結婚式・披露宴に力を注いだり、いろいろなイベントを企画したりして普通の人々の顧客獲得に営業努力し始めたんだけれど、うまく対応し切れず、ほとんどのお店が苦境に立たされているそうよ。

「里むら」も経営が苦しいみたい。深夜。リビングルームで、帳簿の数字をにらんでは溜息をついているママの姿を何度も見て、私も何となく経営状況が想像ついたわ。申し訳なくなって言ったの。
「ママ、私にできることがあったら、何でも言ってください」
「ありがとう、アイアン。心配しなくていいのよ。時代の流れなの。私とパパで、なんとか切り抜けてみせる。アイアンは、しばらく、マサキと赤ちゃんの世話と、日本語の習得に打ち込んでいてちょうだい」
ママの言う通りよ。そんな格式のあるお店に外国人の私が簡単に入り込んで、助けることなんかできやしない。私は、お店のことは考えないようにしたわ。


でも、生活は快適そのもの。
マサキとパパとママがが住んでいた、麻布十番の38階建ての高層マンション「マスターズガーデン麻布十番」に、母子2人がそのまま転がり込んだの。広さを別にすれば、住み心地は最高。東京のど真ん中の港区。ベッドルーム3室の130㎡程度のコンドミニアムなんだけど、2億円したんだって。
私、最初、マニラとの生活格差にお姫様にでもなった気分だったわ。
六本木ヒルズや東京ミッドタウンにも歩いていけるのよ。日本人の女性なら、誰もが憧れる最高のロケーションよ。
赤ちゃんの乳母車を押して、杖をついたマサキのユックリペースに歩調をあわせて、毎日のようにお散歩、楽しんだわ。お陰で、マサキのリハビリも進んだのよ。
食べる面でも着る面でも、お洒落で雰囲気のいいお店がいくらでもそろっているの。目移りしてしまうのよ。
毎日のお買い物は歩いて5分ほどの麻布十番の商店街。最初はママと出かけていたわ。でも、最近はほとんど一人。私のお仕事になったの。ママ、私をすっかり信用してくれているのよ。


パパもママもとっても優しいの。特に板前のパパにすっごく気に入られたみたい。私が料理好きだと知って、キッチンで、日本料理の基本から懇切丁寧に教えてくれたの。器用で好奇心の強い私、メキメキと腕を上げたわ。それがまたパパを喜ばせたみたい。
「うちの若い奴らより、よっぽど筋がいい。女板前として、本格的に修業させたいな」
何かあると、アイアン、アイアンなの。マサキがヤキモチ焼いてむくれるほどなのよ。おおっぴらに言えないけど、私、おじさん達に甘えるのは手馴れたものだったのよね。

パパは買出し、仕込みで、朝早くから出勤よ。朝食の用意は私が担当になったの。ママは、お店を閉めてから夜遅く帰ってくるんだもの。
意外なことに、パパ、朝はパン食派なのよ。私との朝の二人きりの時間、とても楽しみにしているみたい。料理のことを聞けば何でも教えてくれるの。私の師匠よ。ママにもマサキにも言えないけれど、私、思いっきり甘えることにしているの。だって、パパ、すっごく喜ぶんだもの。


パパの肝入りで、私、お店の板場に出ることになったの。家の仕事をする人がいなくなるから反対を覚悟していたのに、ママもマサキも賛成してくれたのよ。何か考えがあるみたい。

特別扱いはしないといっていたので、私、覚悟していたわ。
朝早くから仕込みが始まり、夜、日付が変わる頃まで、つらい厳しい労働が続くのよ。
ずっと立っているの。仕事が終わる頃は足が膨らんで象さんになっちゃうのよ。でも、好きな仕事だから楽しいの。マニラで夜、働いていた頃よりずっとつらいけれども、充実感が違うのよね。

徒弟制度がまだ生きている閉鎖的な職人の世界だけれども、時代と共に少しずつ変わってきているみたい。日々の仕事が鍛錬と勉強であることは変わりないわ。能力、実力の無い間はきついみたい。

でも、働いている新人達から見れば、私、完全に特別扱いだったわ。
1年目は、雑用ばっかりでほとんど料理することができないらしいけど、私は始めから料理を作らせてもらったわ。
板前の修業の目安は、5年なんだけれど、パパが3年で組んでくれたの。これも特別扱いよね。とにかく、パパのような一流の板前になれるよう、頑張るわ。
経営者の息子のお嫁さんということで、年配の板前さん達もすごく優しいの。
上下関係の厳しい世界なので、下積みのときは苛めに近いことがあるらしいけど、私にはもちろんないわ。
追いまわしと呼ばれる1年目の新人さんは、調理道具などの用意、洗剤の補充など朝の準備から始まって、賄い作り、洗い物など。本当に休む暇がないのよ。


でも、皆、言うのよ。私みたいな若くて美しい女性がいるだけで、職場が明るくなったんだって。へへ、しょってるわけじゃ、ないわよ。皆、本当にそう思っているみたいなんだもの。私が入って以来、若い子で、止めた子がいないんだって。私が必死でやってるのがわかっているから、負けたくないみたい。男のプライドよね。


新橋のお店まで、タクシーで1000円くらいの距離。始めは仕事で疲れ切っていたのでタクシーを使っていたわ。でも、美容と健康を考えて、最近は自転車にしたの。体力がついてきたみたい。
「アイアン、若いねえ。羨ましいわ。ママはとても無理」


でも、1年先輩の修司だけは、私の存在が面白くないみたい。妙に私につっかかるよ。私が入るまでは、ヤル気はあるし、学習能力はあるし、ハンサムだし、お店の期待の星だったみたい。その修司がとうとう不満を爆発させたの。自殺未遂騒ぎを起こして、男子トイレに閉じこもってしまったの。きっかけは高校時代から付き合っていた同郷の恋人に振られたんだって。その子が大学生の新しい彼を作って別れを切り出されて、自暴自棄になったみたいなの。先輩達が入れ替わり立ち替わり、トイレに入って、なだめ諭したけれど、「俺は店を辞める」の一点張りなんだって。
郷を煮やしたママが私に説得の白羽の矢を当てたの。ママの女の勘よね。

「修司さん、何よ。あんたが辞めたら、私、がっかりだわ。あんたが私の一番のライバルだったんだから。ヤル気がなくなっちゃうな」
「なんだよ、お前は副社長のお嫁さんに納まって、オマンコしていればいいんじゃないか」
「何よ、私は一流の板前になりたいの。お前こそ、何だよ。女に振られたくらいで、泣きべそ、かいてるじゃないか。女と板前になることと、どちらが大事なのよ?」
「板前になることに決まってるだろ」
「じゃあ、店に残って、私と張り合えよ。お前の価値が分らないような女なんか、お前から捨ててやれよ。お前、ハンサムだし、オマンコの相手なんか、いくらでもいるって。今度、軟派、手伝ってやるって。前の女より、はるかにいい女、探そうぜ」
「本当か。優しくてえ、美人でえ、ボインボインでえ、あそこの締りがいい女、探すの手伝えよ」
「お前、欲張りなんだよ。そんな私みたいな女、そうそうはいないけどな。まあ、手伝ってやるよ」
「お前、あそこの締り、本当に良いのか?」
「アタボウよ。副社長に聞いてみろ」
「そんなことできるわけ、ないだろ。でも、お前、話の分る奴なんだな。知らなかった。お前のダチになって、お前と張り合うよ。店を辞めるの、止めた! でも、お前、本当に軟派、手伝えよ。俺達だけだと、どうもうまくいかないんだ」
「よっしゃ、今度、休みの日、皆で渋谷に出かけるぞ」


恋人探しの渋谷軟派、出てきたはいいけど、修司、かっこうつけているつもりなのか、フニャフニャした態度で、歯の浮くような言葉をかけている。女達、顔を見合わせて、避けて通り過ぎていく。
「修司、きどるからいけないんだよ。お前の魅力はふてぶてしい態度。いつものようにいけよ。エッチな言葉でもいい。印象に残るように、気持ちを正直にぶつけてみろよ」
「わかった。やってみる」

「やあ、俺、修司ってんだ。オネエサン、俺のタイプだなあ。色っぽい顔、セクシーな胸と尻。いいなあ。一発、やらせてくれないかな」
「なによ、あんた、失礼じゃない。私があんたなんかに抱かれると思ってるの?」
「男と女の間の関心事って、結局、オマンコ、やることだろ。俺、君のこと、優しく優しく抱いてやるんだけどな」
「てなこと言って、グイグイ、入れて、自分本位に出していくだけじゃないの」
「俺は、そんな失礼なことはしない。お望みなら、お前のあそこ、3時間は舐め続けるぜ」
「本当か。気持ち、いいだろうな。」
「本当に本当だ。何回もイかせるぜ」
「私、明美。君、正直で気に入ったわ。私、六本木で美容師の見習い、やってるの。君は何、やってるの?」
「俺、新橋で、板前。よろしくな。本当、良い身体しているな。ちょっと、触っていいか?」
「バカ! 10年、早いんだよ」
「俺、料理人だろ。いい素材を見ると、唾が湧いて来るんだよ。おお、早く料理したい」
「私に優しくしていたら、そのうち、やらせてやるって。君、ハンサムだし、私もキスしてみたいわ」
「明美さんがその気になるまで、辛抱します。 我慢します」
「よし、合格! メールアドレス、交換しましょ」
「ほい、きた」
修司と明美、深夜のメールデートに励んでいるんだって。エッチな言葉やエッチな写真を交換しながら、同じ時間にオナっているんだって。そろそろ、本物を味わうことを、二人とも望んでいるんだって。
「明美、お前のオマンコの画像、ピンク色で、すっごくきれいだなあ。俺、見ているだけで、ピュー、ピューって、2回発射しちゃったよ。早く本物を舐めたいよう」
「修司、君のそそりたったものもすごい迫力。私も早くこの手で握り、この口でしゃぶりたいわ。そろそろ解禁よね」
「本当だな。解禁だよな。来週の日曜日あたり、どうだ?」

修司、完全に元気を取り戻したみたい。パパとママに感謝されちゃった。


               ・・・・・・・・★8・・・・・・・・
日本に到着。ケンジの家で同居が始まったわ。
家は、東京メトロ東西線東陽町駅のそば。永代通り沿いの時代遅れのさびれた珈琲店。客はほとんどが常連。パパの小中高の友人の中高年のオヤジがほとんどよ。ママの話では、採算、赤なんだけど、我慢してやっているんだって。何時つぶそうか、考えているところだって。
もったいないわ。私、営業に協力しちゃうんだから。

オヤジ達、私がカウンターに出て行くと手を打って喜んでくれたわ。
「うわぁ~、ママの皺くちゃ顔ばかり見ていたので、華やぐなあ!」
「何よ、安藤。大昔、私に結婚してくれって、迫ったの。誰よ」
「それを言うなって。ケンジ君の奥さんじゃなければ、手を握って、即刻くどくんだけどなあ」
「やってみれば、トキちゃんにすぐ垂れ込むから」
「それも言うなって」

「ところでさ、彼女さ、名前、なんて言うの?」
「ジャネットです」
「可愛い名だなあ。君にぴったりだ。ママの名前、小百合って可愛い名前なんだだけど、もう、全然似合ってないだろ。若い頃はそれなりに可愛かったんだけど、今は無惨だろ」
「さあ・・・」
「お~い。安藤。聞こえてるぞ」
「ところでさ、ジャネットさあ。おじさんのこと、どう思う?」
「始めて会ったばかりだし、どう思うと言われても・・・」
「シャコウジレイで言うの。例えば、いい男ですね、とか、ケンジがいなければ、オジサマと一緒になりたいとか・・・」
「はい。オジサマ、本当、ハンサムだよね。ケンジがいなければ、私の身体、あげちゃおうかな?」
「ジャネット、安藤の言うことなどに、真面目に答える必要ないからね」
「ママ、大丈夫よ、シャコウジレイで答えているから。シャコウジレイって、嘘をつくことでしょ」
「・・・・・」


何日もしないうちに、パパが本性を表したわ。すごくエッチなの。
夕食の用意でキャベツを刻んでいたら、パパの手がお尻に伸びてきたのよ。摩るのよ。ちょっと気持ちもいいし、騒ぐこともないかと、見逃してあげたら、その後、ママの眼を盗んでは何度も何度も触ってくるようになったの。このままじゃ、いけない。ガツンと、一発、かましておかないといけないな。
「パパ! ケンジとママの見ていないところで、私を触らないで! 私は、パパの知っているように、元売春婦よ。だから、パパと寝ることなんか、平気よ。でも、それは、絶対にできない。ケンジを、ママを、裏切ることになるから。今度、私を触るようなことがあったら、この包丁で刺すからね。本気だからね」
「わかった。でも、ずっと出してなくてムラムラしてるんだ」
「出してないって、ザーメンのこと? ママと、セックスしてないの?」
「ヤル気が、全然起こらないんだ。1ヶ月以上、交わりなしなんだ」
「可哀想だな。ママの許可があれば、マッサージのついでに、パパの中に溜まっているザーメン、出してあげてもいいわよ」
「ウワッ、ワッ、ワッ、出してほしい。でも、ママの許可か。難しいな」
「許可は絶対、必要だからね」
「どうやって、説き伏せようか。ウーム」

「ママ、ママ、ジャネットが男性機能回復のマッサージをフィリピンで習ってきているんだってよ。受けてもいいかなあ。是非、機能を回復させて、昔のようにママとギシギシ、ベッドをきしませたいんだけどな」
「あら、うれしいこと、言ってくれるじゃないの。オチンチン、立つようになるなら、受けても構わないわよ」
「でも、そのマサージ、ジャネットに、俺のチンチンの周りを、触らせて揉んでもらうことになるんだけど、それでもいいかな?」
「最後に、パパに天国にいかされたのは、何時のことだったかしら。もう忘れているわ。また、本当に、私のこと、昇天させてくれるというんなら、しょうがない、ジャネットのマッサージ、受けてもいいわよ」
「よっしゃ。善は急げだ。じゃあ、これから、2階で、ジャネットに、第1回、施療をしてもらうことにする」
「じゃあ、頑張ってね。私、トキちゃんと銀座に買い物に行く約束があるから」

パパ、うまく言いくるめたみたい。エロいこととなると、知恵が働くんだから。ケンジも、歳を取ったら、パパみたいになるのかな。ちょっと嫌だな。遺伝だものな。覚悟していた方がいいわよね。そのときはそのときよ。でも、パパ、憎めない、可愛いところもあるのよ。

まず、普通のマサージを1時間弱。身体中をリラックスさせたわ。
「ジャネットは本当にマッサージがうまいなあ。この技術を眠らせておくのはもったいないな。この部屋、ずっと空き部屋のままなんだ。ここを綺麗に改造してマッサージ店、開こうか」
「パパ、お願い。是非、やらせて。私、頑張るから。私、弟、妹達に学費、送りたいの」
「よし、ママと相談してみる」
身体も、心も、解放されて、うっとりしているパパの乳首の周りに集中的に舌を這わせ、乳首にキスをしてあげたの。それだけで、パパのトランクスの中が元気になったみたい。始まりよ。グレース仕込みのオチンチンマッサージ。本当は舌を使うんだけど、それはいくらなんでも、パパにできないわ。オイルと手だけのマッサージにするわ。
マッサージの途中で飲んでいた紅茶にバイアグラ、入れてあるの。薬の力も少し借りるのよ。マッサージと薬の相乗効果よ。あたし、プロだったんだから、要領は心得ている。
「さあ、パパ。裸になって、マッサージ台の上に、仰向けで横たわって。オチンチンマッサージ、始めるわよ」
「ジャネット、俺のチンポコ、ビーンビーンだぞ。これだったら、ママも喜ぶな」
「次からは、ここでママと交代するからね。ママを喜ばすのよ。約束よ」
「わかった。俺、グングン、突っ込んで、ママをイかせまくる」
さあ、仕上げよ。ローションをタップリと陰部に垂らして睾丸、鼠蹊部。肛門をベタベタにして、優しくマッサージ。最後はオチンチンをゆっくりと、かつ、激しく、しごくのよ。実をいうと、この辺のタイミングが一番難しいの。
来た。来た。パパの顔が赤くなって歪んできている。息が荒くなってきている。

「イッたあ! ジャネット、ありがとな」
「パパ、凄い量よ」
「すごい、すごい。すごい。ジャネット、うまいなあ。あっという間に天国だ」
「パパ、私の顔にもかかっちゃった。けど、舐めちゃった。ケンジのパパのだから、汚くないもの」
「ジャネット、お前、本当にいい子だな。娘になってくれて、うれしいよ。ずっと出してなかったんだ。ごめんな。ああ、すっきりした。身体が軽くなった感じだ」
「この次からは、ママと途中交代よ。あわてて強引に突っ込まないのよ。入れる前にママのものをたっぷりたっぷり優しく舐めるのよ。女って、優しくされることに弱いんだから」
「それにしても、ジャネットは正規のマッサージも、性器のマーサージも本当にうまいなあ」
「何、言っているの? 意味がわからない」
「ジャネット、夫婦和合アドバイザーとして、やっていけるかもしれないな」


「若い子って、本当に良いなあ。俺、ジャネットの顔が見たくて毎日通ってしまうよ」
「ジャネットの顔は何時まで見ていても、見飽きないなあ」
「いやだあ。麻木さん、そんなに見つめないで、恥ずかしいわ。穴があったら、入りたくなるわよ」
「俺、ジャネットの穴に入りたいなあ」
「安藤さんって、助平なことしか、言えないのね。最近、私、助平な言葉にどんどん慣れているわ。人間も助平になっている気がするの。安藤さんの責任だからね」
「ジャネットな、世の中な。助平を楽しむくらいの心のゆとりがあってちょうどいいんだ。助平な男ほど、実生活は堅くて信頼できるってもんだ」
「おい、安藤、堅いって、誰のこと? いつもフニャフニャで、トキちゃんに文句言われているくせに。最近はクスリも効かないって、本当?」
「ママ、それを言ったら、おしまいよ。ジャネットが相手だったら、多分ビーンビーンなんだけどな」

「ママ、ジャネットのお尻、ちょっと、触っていいかな?」
「駄目に決まってるでしょ。私のなら、少しくらいいいわよ」
「ごめん。それはこちらから遠慮いたしま~す」
「なら、家に帰って、トキちゃんのを触ってあげたら。歓ぶと思うよ。肉付きのいい、ふくよかなお尻。触り甲斐あるでしょ」
「あのな。ただのデブのケツじゃないか」
「何よ。10年前、あのお尻で上に乗られて揺すられて、ヒイヒイ、泣いて歓んでいたの誰よ。重量感のお尻は最高だって、私に漏らしていたくせに」
「ママな。人の思いってやつは、時代と共に移ろいいくものなんじゃあ」


「あのね、オジサマ方。私、フィリピンでマッサージ、ずっと学んでいたの。今度、2階でマッサージのお店、開業することになったの」
「誰がマッサージ、やるんだ」
「私よ」
「ママじゃ、ないな」
「うるさいな、安藤。ジャネットよ。私がマサージなんて、無理、無理。せいぜいトウチャンのチンチン、ニギニギするくらいよ」
「ママ、お下品よ」
「安藤がそばにいると、感化されるんだよ」
「よし、ジャネットのお客第1号は俺だ」
「指名制じゃないんですけど。でも、有難う、安藤さん」
「キャバクラと間違えて、俺、知らず知らずのうちにお尻など、触ってしまうことがあるかもしれないけど、少しくらいは、許せよ」
「ママ、どうする?」
「商売だからね。少しくらいは見逃してやるか」
「そうね、少しくらいは眼をつぶってあげるわ」
「そうだ。そうだ。減るもんでもあるまいし」
「安藤の次は、俺が予約」
「ありがとう。麻木さん」

マサージ営業開始よ。美しいセクシーな女性がマサージをしてくれるということで、近所の老人男性に大評判。順調に始動。珈琲店のお客も漸増したのよ。珈琲店、つぶさなくていいみたい。
マッサージで、なんとか食えるんだけど、心のどこかが満たされないの。



ジャニスの「MOOVE OVER」。また、かけてるわ。私、聞き飽きちゃってるのに。
ケンジは、ジャニス・ジョプリンの熱狂的ファンなの。ほとんど全てのレコードを収集しているわ。女性恐怖症、引きこもりの時期が長かったケンジ。ジャニスの孤独な歌声に、私には分らない次元で共感を寄せているみたい。ここにだけは性の歓びを共有し、深く愛し合っている私でも入っていけないの。そういう領域を持っているのが、人間なのよね。

「誰もジャニスのようにシャウトできないよ。僕にとっては特別のロックシンガーなんだ」
「クリスはどうしているかな。クリスの歌声はジャニスに似たところがある。マニラで、3流バンドをバックにして、クリスが飛び入りで『サマータイム』を歌ったとき、ゾクッときて、鳥肌が立ったことがあった」
本当、クリスは歌がうまいのよ。うまいというより、歌に魂を入れるの。それは、アイアンも私も認めていたわ。
ケンジは芸術的感性の豊かな人間。私との共通点よ。いいものが、心でわかるのよね。

今はマッサージに順調に客が来てくれるので、金銭的に少し余裕ができてきているかな。弟妹に結構な額、仕送りできるようになったの。うれしいわ。
私、相変わらず、アブラ、描いてるわ。でも、油絵は、お金が出ていく一方なの。マッサージも忙しいし、少し控えざるを得ないの。ケンジも会社の方が忙しいし、二人で、歳を取ったときの趣味に残しておこうなんて言って、慰めあっているのよ。

ケンジは造形大学を退学して、専門学校でインテリアデザインを学んで、今の会社に入ってサラリーマンになったのよ。名刺にはインテリアスタイリストと書かれているわ。好きな仕事なので、充実した日々を送っているみたい。
私、マッサージ、嫌いじゃないんだけど、どこか、心が満たされないのよね。オヤジの背中と尻ばかり見つめることになり、芸術的感性の方がいらだっているみたい。
ケンジに相談したの。
「そうだよな。暗い部屋で年寄りの尻と対面していて、いらついてくる気持ち、わかるよ。どうだい、俺と同じように専門学校に行って、デザイン、学んでみないかい?」
「ええ、行きたい。行きたい。すっごく、行きたい。マッサージは学校と重ならない時間にやるようにするわ」
「デザインでも、俺と同じものをやっても、面白くない。ファッションデザインとか、テキスタイルデザインなんかどうだい?」
「私、よくわからないんだけど」
「よし、今度の休み、俺と一緒に専門学校、幾つか回って、パンフレット、もらってこようよ」
 
ということで、私、ファッションデザインを一から勉強することになったの。
今は、すっごく充実した毎日を送っているわ。幸せよ。

あれから、パパとママの仲がしっくりいっているの。ケンジが気味悪がるほど、ベタベタアツアツなのよ。
「ジャネットって、本当にいい子だなあ。ケンジの嫁になってくれてよかったよ」
「本当ね。ずっと、反対していたことが恥ずかしいわ。あなたあ、今夜も寝る前、激しく優しく可愛がってね」
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by tsado18 | 2011-10-31 17:57 | 女達・それぞれの道
               ・・・・・・・・★9・・・・・・・・
あたし、頭の中が真っ白のまま、産婦人科医からもどってきたの。
「ママ、どうしたらいい? あたし、できちゃったみたい」
ママ、テレビで台風の進路のニュースを真剣に見ていたみたい。
「何がだい? にきびかい?、水虫かい?」
「あたし、顔色、青くない? そんなもので、こんな深刻な顔しないわよ。できたのは、子供、子供よ。赤ちゃんよ」
ことの重大さを認識して、ママ、テレビのスィッチを切る。
「そりゃ、大変だ。相手は翔太かい?」
「なら、うれしいんだけど。違うわよ。翔太お兄さん、大好きだけど・・・、大好きだけど・・・、まだセックスしたことないもの」
「じゃあ、お客さん?」
「あたしはプロよ。そんなヘマしないわよ」
「じゃあ、相手は誰?」
「エンリコだと思う。本当に短い期間だった。けど、二人は真剣に愛し合っていたんだ」
「あれえぇ! 助けてぇ!」

実は、こうなる可能性が頭の片隅からずっと離れなかったの。
だから、医者に子供ができたと告げられときも、驚きはしなかったわ。やっぱりできちゃったか。運が悪いよな。神様は見逃してくださらなかったのねって思ったわ。

「堕ろすのかい?」
「今のところ、気が動転していて何も考えられないの」


イタリアで翔太のつきあっていた女性ジョアンナが、弟のエンリコを連れて、1週間、マニラに遊びにきたの。シンガポール赴任になった父親のところに行く途中、寄ったんだって。
セクシーで、エレガントで、知的で、どこをとっても今のあたしでは太刀打ちできないと思えたわ。パニックだった。嫉妬で目が血走っていたと思う。いつかは自分を磨いてジョアンナを超える女性になるんだと心の中で堅く誓ったもの。

ジョアンナと弟は客用の部屋をあてがわれていた。なのに、なのに、ジョアンナったら、ずっと翔太の部屋に入り浸ったまま。あたし、胸が苦しくて苦しくて、ベッドの上でのたうちまわっていたわ。
深夜、気持ちを鎮めに、水を飲みにキッチンに下りていくと、エンリコも眠れないみたいで、ぼんやり食卓に腰掛けていたの。
「どうした? 眠れないの?」
泣きそうな顔でうなづく。大切な姉さん、翔太に取られてしまって相手にしてもらえないんだものな。わかる。わかる。可愛そう。
グラス二つにブランディーを注ぎ、弟にもすすめながら、
「あたし、クリス。君、名前は?」
「エンリコ」
「君、何歳?」
「14歳」
「なんだ。あたしより一つ下なんだ」
優しく頭を撫ぜ、背中をさすってあげていると、ブランディをむせびながらがぶ飲みし、おいおい泣き出してしまったの。あたし、ほっとけなかったわ。あたしの部屋に連れていったの。あたしも一人でいたくなかったんだもの。
ベッドに座って手を握り合い、長い間、お互いの顔をじーっと見詰め合っていたわ。
「泣かなくたっていいじゃない。女って時々男に夢中になるものなのよ」
「君、可愛らしい顔してるのね」
両手でエンリコの顔をはさんで、その整った顔を見ているうちに、キスをしたい衝動が襲ってきたの。
「あの人達二人のことは頭から追い払って。私達もキスしちゃおうか」
エンリコがうなずく。同じ気持ちだったみたい。でも、こういうことに始めてみたいで震えていたのよ。きつく閉じていた唇に舌を差し込んで優しく開いてあげたわ。
後は本能が導くままよ。もうベッドの上を転げまわって、舌と舌ををからめあわせた熱い熱いキス。時間を忘れて、し続けたわ。翔太のこと、どこかに飛んじゃっていたわ。いつのまにか二人は裸になっていたの。当然よね。二人とも身体中の至る所にキスをしまくっていたわ。エンリコ、女性のあそこに触れるのも始めてみたいで、長い時間をかけて、触ったり、匂いをかいだり、舐めたり、指を入れたりしながら、観察していたわ。あたし、自由にさせてあげていたわ。この日は、勃起したエンリコのものをシュパシュパ、ジュルジュル、音を立ててお口の中で出し入れして、さっぱりさせてあげたわ。そのとき、エンリコ、大きな声をあげたの。ママの部屋と離れていて助かったわ。気がついたら、朝になっていたのよ。エンリコを自分の部屋に返し、シャワーを浴びて、少し眠ってから、普段通り、学校に出かけたわよ。あたし、頑張り屋さんなんだから。でも、授業中、居眠りばかりしていたみたい。


1週間の間、夜11時になると、エンリコ、期待に胸を膨らませて、あたしの部屋にやってきたわ。本当のところ、あたし、少しうんざりしていたわ。
エンリコ、あたしのあそこに入れたがったの。もう、エンリコ、好きになっていたから、断われなかったわよ。でも、精液を出すのは、きっちりとお口の中にしたわ。
でも、最後の日、一応安全日だったし、お別れかと思うと、ついついガードが甘くなったのかしら。堅く抱きついて離れようとしないエンリコの精液を私の中に受け入れちゃったの。あたしも、無意識にそれを望んでいたところがあったみたい。その気持ちの隙をつかれたの。神様の意地悪。


               ・・・・・・・・★10・・・・・・・・
学校が休みの日曜日、エンリコとイントラムロスをデートをしたのよ。そのときは、もう完全に恋人同士。サンチャアゴ要塞、マニラ大聖堂、どこに行っても楽しかったわ。いつも見詰め合って、人のいないところではキスをして、必ず身体のどこかを触り合っていた。平等な性の歓びを共有していたと言っていいかしら。若い恋人達の情熱と思いやりというものを切ないくらいに体験したわ。今までおじさんばかりが相手だったから、こんな感情、始めてだったの。新鮮だったわ。エンリコのこと、本当に好きになっていたのね。

でも、人生って不思議よね。あたし達がこんなに燃え上がっていたのに、あんなに仲が良くてラブラブムードだった翔太とジョアンナの間が翳りを見せ始めているのが、傍から見ていてもわかったわ。ジョアンナの翔太への愛なんてそんな程度のものだったのね。ジョアンナには勝てると確信したわ。翔太は私のものよ。

毎日、手紙を出すなんて、息巻いてたエンリコから、イントラムロスの写真が入ったイタリア語の手紙が一度送られてきたっきり。後は、一切連絡はなかったわ。男なんて口先三寸の生き物なんだって、再認識したわよ。でも、つらくなんてなかった。そこまでエンリコのことが好きでもなかったし、ほとんど期待などしていなかったもの。私が心から好きなのは翔太兄さんよ。早く翔太兄さんとエンリコとしたことと同じことをしたい!



堕ろすか産むかで悩んだわよ。私、まだ15歳よ。
翔太、ママから私の妊娠を聞いて、がっくり気を落としていたみたい。それも、エンリコの子と知って責任を感じたらしいの。私が兄さんのこと、大好きなのを知っているのに、ジョアンナを部屋に引き入れてイチャイチャしていたんだものな。当然よ。

結論を出したの。私、イジイジするのが嫌いなの。
一時的だけど、エンリコは私が本気で愛した男の子よ。私、産むわ。
私の子宮に生命が宿っているの。その子を殺すなんてとてもできない。

ママと翔太にその決意を伝えたら、
「よく決心したわね。ママ、応援するわ」
「俺に責任がある。俺が、その子の父親になる。クリス、お願いだ。俺と結婚してくれないか?」
「突然、何を言い出すのよ。私が好きだからじゃなく、私のお腹の子のために結婚するの? そんなの絶対に嫌よ」
「違う。クリスが好きだからだ。大好きなクリスの窮地をほおっておけないから、結婚を申し込んでいるんだ」
「本当よね。信じていいのよね」

運命って、皮肉ね。翔太が他の女に心を移したんで、私が他の男の子供を妊娠した。そしてその流れの中で、私と翔太が急いで夫婦になったのよね。結果的には、翔太の浮気が私達二人を結びつける触媒になったのよ。今回はハッピーエンドでよかったけれど。本当、人の運命なんて、一筋縄ではいかないみたい。だから、面白いのよね。


俺、怒りを感じて、シンガポールのジョアンナに電話したんだ。もうジョアンナに対する熱は完全に冷めていた。
「ジョアンナ、お前の無責任な弟はどうしてる?」
「何よ、そんな言い方ある? ひどいわ。ひどいわ。エンリコは死んだのよ」
電話口でジョアンナが泣き出してしまった。泣きながら、脈絡なく語った内容を整理すると、
2週間前、エンリコは無免許のバイク事故で、スピードを出しすぎて高速道路を曲がり切れず、激突死してしまったそうだ。
病院で、息を引き取る前、息も絶え絶えに語ったそうだ。
「姉さん、伝えて。クリスに、愛してるって」
何のことか、わからないので、俺に電話しようと思っていた矢先らしい。

それを聞いて、クリスの妊娠の話は何も伝えなかった。伝えても意味がない。俺が責任を持てばいいんだ。昔、激しく愛し合ったジョアンナ。お前の弟の子供は、俺が立派に育てるよ。


あいつ、オートレーサーになるのが夢だと言っていた。それなのに、レースではなく、バイク事故で、死んでしまうなんて。あいつらしいや。あいつ、馬鹿で軽率なところ、あったもんな。でも、あいつのそういうところも好きだった。
あいつ、この世にもう存在しないのね。二人の恋は完全に終わったんだ。あいつが可哀想。今日は、一日中、あいつのことを思い出して祈ってやるわ。死ぬ前に、愛の喜び、性の歓びを知ることができて、少しは幸せだったんじゃないかな。そう無理やり納得するしかないのよね。でも、なんでこんなに次から次と涙が出てくるの。
これで、手紙が途絶えた理由がわかったわ。本当はずっと愛してくれていたのよね。手紙が書けなかっただけなんだよね。エンリコ、君の愛の証、私のお腹の中で育っているのよ。安らかに眠ってね。私が立派に育てるから。どうしても涙が止まらないの。


「母さん、俺、生まれてくる赤ん坊の父親になる。クリスとは実質的に夫婦となる。だから、クリスと同じ部屋で生活する。もちろん、一緒のベッドで寝る。あらゆる面でクリスを支えていこうと思う。クリスはまだ15歳なんだものな」
「そうした方がいいわね。私もクリスを嫁として扱うわ」
「若いふつつかな嫁だけど、母さん、よろしくお願いします」
「綾瀬家の嫁として、厳しく優しく育てるわ」
「母さん、有難う。頼りにしています」
「それと、病院のクリスのママのところへ二人で行って、娘と夫婦になることをちゃんと報告してくるのよ」
「明日、行ってくる」
「リサも、きっと喜んでくれるわ。私とリサ、親戚になるのね」

「産むまでは不安でたまらないだろうから。おばあちゃんとして、親になる心構えをしっかりと伝えていくわ」
「生まれたら生まれたで、子育てと学業の両立だ。亭主と祖母の全力サポートが必要だな」
「そうよ。お前も社会人として自覚しなくちゃ。母親に食べさせてもらっている現状をなんとかしなくちゃね」
「母さん、俺、必ず仕事を捜す。見つからないなら、日本に出稼ぎにでもいくよ」
「そうだね。お前も変わらないとね。でも、せっかく、一緒になるのに、夫婦離れ離れになると、クリスが可哀想だね。私もやっと一緒になったお前と別れるのはつらいなあ」
「母さん、本気で仕事、捜すよ。安くてもつらくても我慢する。クリスと俺と母さん、やっと家族になれたんだ。壊したくないよ」
「お前、うれしいこと、言ってくれるねえ」
「それと、ここで、空手道場を開くことも、考えているんだ。謝礼を安くすれば、子供や若者、習いにきそうな気がするんだけど、甘いかな」
「結構、いいアイディアじゃないかな」


部屋は客用の広い部屋をクリスと二人で使うことになった。
今夜からクリスと同じ部屋で夜を過ごすんだ。リビングルームで夕食を済ませた後、何も考えていないのに、溜息が何度も漏れてしまう。照れ隠しに、意味もなく母さんに目配せをした。母さんもうなずいてくれた。
「母さん、俺、なんだかすごく緊張しちゃっているみたいなんだ」
「仕方ないだろ。普通の結婚なら、初夜にあたるんだものな。クリスに優しくするんだよ。妊娠中の身体なんだから乱暴に扱わないんだよ」

先に部屋に入って、クリスを待つ。やっぱりおかしい。クリスのことなど、意識したことなんかなかったのに、身体がざわついて落ち着かない。
音もなく部屋に入ってきたクリス、涙の滲んだ眼でじっと見つめてくる。愛おしい。改めて責任を感じる。
「兄さん、私の服、脱がしてくれる?」
「いいけど、どうしてだ?」
「私、変わりたいの。兄さんが兄さんの手で私を裸にしてくれれば、なんだか変われそうな気がするの。クリスが、エンリコのお姉さんみたいな淑やかでエレガントでセクシーな女性に変身する儀式よ。私、すっごく焼いていたんだから」
「きついなあ」
眼をつぶり手をだらっと垂らして直立するクリス。脱色ジーンズのボタンを外しジッパーを引き、一気に引き下ろす。ピンクのショーツをはいたツンと上がった形の良いお尻。美しい。息を飲む。今までクリスの身体を注意して見たことがなかったことに気づく。
続けて、タンクトップのキャミソールの裾に手をかけてクリスの頭も一気に引き抜く。ピンクのブラからこぼれそうな乳房。美しい。クリスの乳房ってこんなにも豊かで美しかったんだ。俺は、一緒の家に暮らしていて、今まで何をみていたんだ。顔が熱くなる。身体も熱くなる。
残り、二枚。脱がせるだけ。息苦しくなる。躊躇している自分にカツを入れ、一気にショーツを引き下ろす。クリス、俺の肩に手を置いて、右足、左足の順に引き抜く。スッポンポンの下半身。陰毛の黒が震えている。眩しい。クリスの後ろに手を回し、ブラのホックを外し、ブラを剥ぎ取る。豊かな乳房が波打って揺れている。大きな乳輪とピンと立ったピンクの乳首。生唾を思わず呑み込む。生まれたままの身体。始めてクリスの全裸を眺める。ただただ、美しい。クリス、眼をつぶったまま、セクシーに腰を振る。
「兄さん、私の裸の姿、どう?」
「美しい! ものも言いたくない。感動している」
「クリス、君が許してくれるなら、子供が生まれるまで、君のこの美しい裸をカメラで記録したい。毎日、その日、その日の最も美しい一瞬を写真に焼き付けたいんだ」
「私も、身体が綺麗なうちに、翔太にヌード写真集、作ってもらいたかったんだ」
「自家版ヌード写真集『クリス、懐妊から出産まで』とかなんとかいうようなタイトルで、クリスの身体の微妙な変化と子を宿した女性の美しさを追い続けるつもり。話題と際物系の妊婦ヌードから跳び出して本当に美しい妊婦ヌード写真集を作りたいんだ。クリスの匂い、クリスの肌の質感までも伝わってくる写真集にしたい。精魂、傾ける。俺の代表作の一つと言えるものにする。クリス、被写体として、協力してくれないか?」
「もちろん協力するわよ。私は妻よ」

クリス。全裸でダブルベッドに足を開いて仰向けに寝そべる。天井の一点をじっと見ている。身体が震えている。涙がとめどなく流れ出す。
「兄さん、抱いて。私、このときを、ずっと、ずっと、ずっと、待ち焦がれていたの」
「クリス、もう兄さんはやめてくれ。俺とお前は夫婦なんだ。翔太って呼んでくれ」
「わかった。翔太、私を抱いて。このときを、ずっと待ち焦がれていたんだから」
俺も全てを脱ぎ捨て、クリスの隣りに横たわり、震えるクリスをきつくきつく抱き寄せる。
「クリス、愛してる。今日からお前のことを全力で守っていく。何も心配するな」
「翔太、うれしい。抱いて。抱いて。きつく抱いて。抱かれているだけで幸せなの」
クリスの涙で胸が濡れる。濡れる。濡れる。濡れる。この感覚、一生、忘れないだろう。俺は守らなければならないものができたんだ。ヤル気と勇気が湧いてきていた。
ただただ、しがみついて泣き続けるクリスが愛しい。

「クリス、お願いだ。君の裸をじっくりみてみたい。ベッドの上に立ってもらえないか」
「クリス、凄く綺麗。こんな美しい裸、今日から俺のものなんだ! うれしくてうれしくて泣き出したいよ! 叫びだしたいよ!」
「翔太、私のこの身体を、たくさんの男達が通り過ぎていったのよ! セックスしていったのよ! 許して!」
「許すも許さないもない。俺もたくさんの女とセックスしてきた」
「一生を共に過ごす人、大好きな人ができた今、その過去が恥ずかしくてたまらないの」
「クリスの家族が食べるため、生きるためにしてきたんだ。恥ずかしがらなくていいよ」
「けがらわしいこの身体、リセットできるなら、リセットしちゃいたい。こんなこと、感じたことなんかなかったのに・・・ 翔太! 愛してる!」
「クリス! 俺も愛してるよ! 今のままのクリスが大好きなんだ!」


ベッドの上で、長い間、抱き合って、キスをし続けた。それだけで幸せだった。セックスするなんて気持ち、少しも湧いてこなかった。
「翔太、夫婦って、セックスもするんでしょ。さっきから翔太の堅いあそこ、私のお腹にあたって、痛いんだけど」
「忘れていたけど。俺のチンポコ、ギンギンに突っ張っている。どうしよう」
「馬鹿ね、セックスして、溜まっているもの、出して、小さくするしかないわよ」
「クリスとセックスするなんて、俺、そんなこと、できないよ」
「何よ。私達、夫婦でしょ。セックスは夫婦の義務よ。夫婦の証明よ」
「俺、クリスとセックスするなんて、怖いよ。ちゃんとできるかな?」
「馬鹿! 何、童貞みたいなこと、言ってるのよ」
「クリスとセックスしたかったけど、ずっとその気持ちを押し殺してきたんだ。今さら、してもいいと言われても、心が素直に反応しないんだよ」
「つべこべ言わずに、私の中に入れるの。その後は、身体の方が自然に反応してくれるわよ」
「そうかなあ」
「翔太、それに、コンドームなしでいいのよ。生よ。クリス、生って、始めて同然なの。どんな感覚なんかな。ワクワクしちゃうわ」
「ウへェ~、生か。俺も、もう頭が変になりそうだ」

「クリス、クリス、クリス、俺、もう出ちゃうよ! まだ、入れたばかりだろ」
「いいの。そのまま出しちゃって。楽しむのは2回目以降でいいわ。翔太、それにしても早すぎるな」
「クリス、クリス、動かないでくれ。クリスの中に収まっている。ただそれを思うだけで、チンポコがモワッと熱くなってくるんだ。また、出ちゃったみたいだ」
「翔太、いくらなんでも早すぎる。でも、膣の中に射精される感じがすっごく伝わってくるの。これが生なのよね。最高よ。こんな感覚、始めてだわ」
「クリス、クリス、クリス、キスして抱き合っているだけで、射精したくなるんだ。こんなセックス、俺も初めてだよ」
「嫌だあ。何も動いてないのに、3回、イクなんて!」
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by tsado18 | 2011-10-31 17:52 | 女達・それぞれの道
               ・・・・・・・・★11・・・・・・・・
ジイジが日本から戻ってきたのよ。ジイジのいない間に、私が妊娠して翔太と夫婦になったと聞いて、空いている飛行機便に飛び乗ってあわてて駆けつけてきたの。
「クリス、クリス、びっくりしたぞ。始めてアイアンから連絡をもらったときはパニックになった。その後、この急展開の裏に何があるか、心配で心配で、眠れないくらいだった。今、クリスの元気な顔を見て、やっと安心した」
「ジイジ、ごめんなさい。私にも、考える暇がないくらいの速さで、あれよ、あれよという間に事態が進んじゃったの。ジイジに連絡することさえ、頭をよぎらなかったの。本当にごめんなさい」

「ジイジ、始めまして。翔太です。この急展開の真相は、赤ちゃんが生まれたとき、ショックを受けるかもしれないから、後でクリスから聞いてください。僕にも非があるんです。でも、怪我の功名というか、今はクリスと夫婦になれたことを心から喜んでいます」
「翔太君。君の存在はクリスからそれとなく聞いていました。結婚、おめでとう!」
「ジイジ、翔太の母です。生まれてくる赤ちゃんのおばあちゃんです。ジイジは生まれてくる赤ちゃんのおじいちゃん。ジジババ同士、仲良くしてくださいね。クリスのそばにいた私なんか、ずっとオロオロしどおしだったんですよ。クリスは強い子ですね。ジイジ、誉めてやってください」
「おばあちゃん、こちらの方こそ、よろしくです。私だけが蚊帳の外の気分だなあ。本当に何があったんだ?」
「このまま黙っていようかな。赤ちゃんの顔を見て、ジイジのびっくりする顔を見てみたい気もするな」
「クリス、調子に乗るな!」


「翔太、私、成績の方は全く問題ないから、もうすぐハイスクール卒業だわ。卒業してからの出産になりそうよ。身体がつらくなければ、それまで、学校、なるべく出席するようにしたいんだけど。協力してくれる?」
「もちろんさ。当然だろ」
「1年間は育児に集中しようかな。でも、大学へ入って勉強もしたいしな」
「その辺は二人で考えていこう。俺も、ここら辺りで、もう一度、写真と本格的に向き合いたいんだ。そのためにも、なんとか仕事を見つけたいなあ」
「そのことだけど、ステフおばさんの話によると、カビテのバコールで知り合いの日本人が屋根屋さん、やってるんだって。そこで、太陽光発電、ソーラーパネルに詳しい日本人を探しているみたいよ。紹介するから、会いにいってみればって、ことよ」
「本当か。早速、会いにいってくる」
これからの人生、私一人ではなく、翔太と共に知恵を出し合って協力して進んでいくのよね。

ジープニーに乗って到着すると、バコールはゴミゴミした何の変哲もない田舎町。ジョリ・ビーの3軒隣りの黒澤屋根店は、翔太、すぐに見つけたそうよ。
「こんにちわ。東京のステフの姪のクリスと結婚した綾瀬翔太と申します。ラス・ピニャスに住んでいます。ソーラーパネルに詳しい日本人を捜しているということを聞いて、参上いたしました」
「やあ、どうも、どうも。黒澤屋根店の黒澤です。ステフから、聞いていますよ。翔太君、どのくらいの経験があるのかな?」
「東京で、2年ほど、ソーラーパネル設置の仕事をしていました。でも、こちらの事情は全くわかりません」
「それなら、私の方も、同様。現在、調査中です。一緒に、勉強していってもらいたいんだ。クリーンエネルギーとして、将来性は必ずあるはず。フィリピンの現状に合わせて仕事をしていこうと思っているんだ。それまでは、本業の屋根屋の仕事、手伝ってもらうことになる。日本で修業してきた職人さんが二人いるから、やりやすいと思うよ」

「実は、私、ラス・ピニャスで土曜と日曜、極真空手の道場、開いているんですが、構いませんか?」
「そうですか。どことなく、武道の雰囲気が伝わってきたので、ひょっとしたらと、思っていたんですよ。私は剣道ですが。こちらの仕事に差し障りない限り、構いませんよ。むしろ、そういう方の方が歓迎です」
「もちろん、こちらの仕事を優先します」

「それと、厚かましいお願いで申し訳ないのですが、私の直弟子、一人、15歳のなんですが、仕事を覚えるまで無給で構いません。こちらの下働きで使っていただけませんか? 取り得は銃に熟達していることと、上の命令には忠実に従うことです」
「そうですか。始めは小遣い銭程度ですが、それでも、よろしければ、一緒に連れて来てください。しばらくは、預かって働き振りを見ます」

「アイアンとジャネットが日本へ行ってしまったら、リメディウス・サークルのコンドミニアムは引き払う。それに合わせて、退職金も出たことだし、マニラで、家を買うことにした。リサ、クリス、マウイ、ウィルマが住む家。ステフ、コーラがフィリピンに帰ったときの実家。クリスは綾瀬家の嫁に入ったんだから、行ったり来たりすればいい」
「ジイジ、かなり広いけれど、この翔太のママの家の隣りの空き地、購入するの、どうかな? 今、翔太が空手の練習場にその一部を借りている土地。翔太、雨が降っても練習できるように、とりあえず、屋根を付けたいんだって」
「値段が手頃なら、買っちゃおうか。新しい家は状況に合わせて造っていけばいい」


プレハブの安普請の建物だけれども、突貫工事で「極真空手・ラスピニャス道場」が完成したのよ。これで翔太も一国一城の主になったわけ。メキメキと腕をあげたノエル。今では翔太の片腕として、子供達を教えているの。チェスカ、モニカと一緒にすぐ近くのタウンハウスで生活しているわ。3人で、ママの家で食事をとることも多いのよ。ママの家、一段と賑やかになっちゃった。


クリスの仲間の少女売春婦達を追って撮り続けてきた翔太の写真が、「青春のきらめきと残酷」というタイトルで日本の写真誌に載ったのよ。勿論、少女売春婦などという説明など一切していないわ。けど、不幸な境遇って、何となく伝わるものなのよね。
食べ物にも事欠く厳しい生活環境の中、セックスしか売るもののない少女達。その穢れなき瞳の中の絶望と幸せへの強い希求が見る人に強く訴えかけたみたいなの。明るさと、もの哀しさが光と影となって交錯する美少女達の印象的表情。抱腹、安全を当然と思っている日本人の心を深層で揺さぶったみたいなの。
売春に否定的見解を持っていた翔太も、売春する少女達と心を通わせてつきあっているうちに考え方もすっかり変わったみたい。それがいい写真に繋がったのかな。
写真につけられた寸評も好意的なものが多かったのよ。
始めはジイジのつてで出版社の人を紹介してもらって何とか載せてもらったんだけれど、かなり評価されたみたい。早速、ダバオの無法地帯をルポする撮影依頼があったのよ。出版社との細い細いパイプができたの。カメラマン綾瀬翔太の誕生よ。今後の活躍は、向こうが望んでいる写真が撮れるかどうかにかかっているのよね。翔太、今、燃えに燃えているわ。ミンダナオの危険地帯をものともせずに跳び回わっているわ。


家に帰ると、翔太、報道写真家から芸術写真家に変身するのよ。私のヌードを撮りまくっているわ。妊婦ヌード写真集『美の超越・孕む女クリス』の撮影は二人の楽しい共同作業。撮った後に、二人の濃密なセックスの時間が待っているんだもの。燃えるわよ。セックスの最中、アイディアが湧いて、撮影に入るなんてこともザラよ。夫婦だからできるのよね。
翔太、クリスのあのときの匂い、クリスのあのときの声、クリスのあのときのしっとりとした肌の質感をどう表現しようか悩んでいるのよ。なんか笑いがこみあげてくるの。真剣な翔太に悪いわよね。
今度、パラワンの海に野外ヌードの撮影にいくのよ。そのときはチェスカ、ノエル、マユミ、ウィリーも一緒に行くんだって。機材持ちと撮影の見張りよ。
チェスカは夕陽の海辺で、翔太に綺麗な全身ヌードを撮ってもらい、一生の記念にするんだって、はしゃいでいるわ。マユミは崩れ始めた身体は絶対に誰にも撮らせないんだって。

屋根屋に、空手道場に、写真家。翔太、急に多忙になったのよ。


翔太の活躍を見て、なんだか少し取り残された感じがする私。でも出産を控えた身体。焦ることなど、何にもないのにね。今は活動が制限されて動けないわ。日々、膨らんでいくお腹。この中で生命が誕生を待っているんだと思うと充実の思いも並一通りでないのよ。
動けないからこそ、忘れていた想念が湧いて来たの。
子供の頃からの夢。
歌手になる。それもジャズ・シンガーになる。
私は歌うために生まれてきたのよ。
今、できること。
CDで、ユーチューブで、ビリー・ホリデー、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレエなど、偉大な先人達のジャズ・ボーカルを聞くこと。真似して口ずさむこと。
同じスタンダードナンバーの「Body And Soul」でも、ホリデイ、エラ、サラ、マクレエでは、それぞれに個性のある歌い方をするのよ。私は、クリス流で歌うしかないのね。


ジイジが大学の授業料、出してくれるの。どこに入ろうか、迷ったわ。でも、やはり音楽のことが頭から離れないの。
結局、マニラ女子大学音楽学部でフィリピン民族音楽を学ぶことにしたの。民族音楽なんて、つまらないじゃないかって? でも、ジイジは、自分の国の民族音楽を研究することはとても意味があることだと賛成してくれたのよ。やはり、学者さんなのね。
私の好きな音楽は大学とは関係のないところで、愉しむわ。実践するわ。

私のジャズヴォーカルは私の少女売春婦時代が原点にあるの。アカディミズムの中のお気楽お嬢さんとは無関係よ。かっこいい言葉を使わせてもらうと、私の歌は、あの時代の同じ境遇の仲間と、今、昔の私と同じような立場に置かれている少女達に向けての「魂の叫び」、「連帯のメッセージ」なのよ。
底流に流れているものが大学の学問なんかと全然と違うわけ。

音楽学部入学を機に、何か楽器を自分でも納得できるレベルで弾けるようにすると決心したわ。ギターかキーボードか迷ったけど、キーボードにしたの。場合によっては、ピアノ、オルガンにまで手を伸ばそうかとも考えているわ。
選択の理由は簡単。家の前の通りの10軒先くらいのところに、近所の人に軽蔑気味に「ボブじっちゃん」と呼ばれている、いつも酔っ払っている、アル中のお爺さんがいたからなの。最近まで有名なジャズバンドのキーボード奏者だったんだって。頼んだら、気持ちよく先生になってくれたわ。ママは、酒代が欲しいんだろ。あの状態でちゃんと教えられるのか、心配していたけど、教える前はお酒を控えているみたい。とても気さくな人よ。多少の酒臭ささえ眼をつぶれば、週3度の練習に行く度にジャズの話が聞けて、とても楽しみになったわ。私、授業の後、先生の面白い話を引き出すために、レッド・ホースという強いビールの大瓶を持参するのよ。悪い女、いや、気が利く女になったでしょ。赤ちゃんが生まれた後は、私も一緒にきっと飲むようになると思うわ。そのときは、勿論、翔太も呼ぶわ。

そのお孫さんのボンボンという男の子が生意気にもドラムをやっているんだって。ボンボンがリーダー格で15歳そこらの若い子を集めて生意気にもバンド組んでいて、伸び盛りでグングン力をつけているそうよ。おジイさんの評価では、ジャズボーカルをやっている自分の弟子の女の子と同じようなレベルにあるんじゃないかだって。おジイさんの酔っ払い話からジャム・セッション、開くことになったの。
「俺たち、若いと思って、軽く見ていないか。俺たち、ジャズに関しては真剣なんだからな。将来、ジャズで身を立てていくつもりだ。女子学生の世迷い事と一緒にしないでくれる?」
腹が立つったら、ありゃしない。第一印象は頼りになる同志を見つけたというより、格好の喧嘩相手を見つけたってところだったな。
「何、生意気、言ってんのよ。まだチンポコにちゃんと毛が生えていないんだろ。私のバックバンドやるんなら、女の3人くらいは泣かしてからにしてくれる?」
売り言葉に買い言葉よ。ちょっと、大人げなかったな。
「ふざけんな。お前のバックバンドなんか、やるもんか。お前の歌で俺のチンポコ、ピクピク震えさせたら、俺達のバンドのヴォーカルで使ってやるよ」

ボンボンのドラムと、バンド仲間のギターとベース。オジイさんのキーボード。私のヴォーカルでジャムセッションを気がすすまなかったんだけど、やってみたの。出会いは散々だったけど、予想外に、なかなか良い雰囲気で盛り上がったのよ。お互いの実力はだいたい把握できたわ。
「お前のヴォーカル、奇妙に迫力あるなあ。俺達の持ってないものを持っている。たまには、バックバンド、やってやってもいいぞ」
「思ってた以上に力があるのね。驚いたわ。時間が空いていれば、ヴォーカル、参加してやってもいいわよ」
「うるせえ。お前のヴォーカルなんか、俺達のバンドに必要ないよ。お断りだな」
「フン。ガキのくせに、言うことだけは一丁前だな。こっちこそ、バックバンド、お断りよ。私の歌の邪魔になるだけ」
お互い、一緒にやりたい気持ちがあるのに、若いって、つまらないプライドにこだわるみたい。正直じゃなくなるのよね。自分の方から折れるってこと、できなかったの。私、あんな子供、普通のことなら、軽くあしらえるのに、ジャズとなるとちょっと意固地になっちゃったみたい。

ボンボンは家に帰ってから、相当荒れていたらしいの。それに気づいた父親がじっちゃんに真相を聞き出し、夜になってから、ボンボンを連れて家にやってきたの。私、既に落ち着いた気持ちになっていたわ。ボンボン、下を向いて、恥ずかしそうにしていたわよ。でも、私と一緒にやりたいから我慢してやってきたみたい。
「始めまして、ボンボンの父親です。ボブじっちゃんの息子です」
「始めまして。クリスの母です。こちらこそ、よろしくね」
「こいつがいらいらして妹達を苛めていたもんで、一発、張り飛ばして、理由を聞き出したんです。そうしたら。こいつ、お宅のお嬢さんに振られたらしいんです」
「あらあら、大変。この子、娘じゃなくて、息子の嫁なんです。ですから、惚れられても、困っちゃいますわ」
「ハハハ。いや、色恋の話じゃないんです。こいつ、一緒にジャズバンド、やりたいのに、お宅の若いお嫁さんに振られてしまったらしいんです。おい、お前から、もう一度、頼め」
「クリス、御免。俺、やっぱり、お前と組みたいよ。お前とやると、すごい刺激になるんだ。バックバンドでも、いいよ。昼は仲間の手前、ああ出るより仕方なかったんだ」
「ボンボン、さっきは私も言い過ぎた。ごめんな。本当は私もあんた達と組んでやってみたいんよ。私もずっと後悔していたんだ。じゃあ、リーダーは、しばらく、ボブじっちゃんにやってもらおう。練習のときは、ボンボンがリーダー代理で采配を振るえよ。これなら、仲間も納得するだろ。バンド名は『ボブじっちゃんバンド』でどうだ。面白くないな。インパクトないな。それじゃあ、『アル中じっちゃんバンド』にしようか。どうだ?」
「異議ないな。クリス、お前、生意気な割には、優しいところも面白いところもあるんだな」
「やっと気づいたか。惚れるなよ」
「冗談じゃないぜ。空手の兄ちゃんに半殺しにされたくないよ」

ジャズバンドの件は1件落着。
ところが、事態が、意外な方向に、発展し始めたの。
ボンボンのパパがたいした用事もないのに、家に来るようになったの。それを、ママがお茶を出したり、食事を出したりして、うれしそうにお相手するのよ。話などせずに、ずっと見つめあったりしているの。私、まるでママの保護者の心で、ハラハラドキドキよ。
そのときのママの眼、あれは間違いなく恋する女の眼よ。

翔太に話すと、全然、気にしていないのよ。
「おフクロに散々迷惑ををかけたきた。もうクリスもいるから、人生、自由に楽しんでもらおうと思う。これからの人生、長いんだ。好きな人を作って、たくさん、たくさん、恋をしてもらうよ」

ママ、43歳。女盛りよね。それに、目元、口元に色気が滲みでている、なかなかの美人よ。しみも小皺もほとんどなく、透き通るような綺麗な肌をしているわ。何よりも、ボインボインのセクシーな体形、まだ少しも崩れていないの。正常に性欲のある男なら、皆、抱いてみたくなるわ。

ボンボンのパパ。スポーツマンタイプののイケメンよ。46歳なんだって。3年前、妻を亡くすまで、ラス・ピニャス警察署に勤めていたそうよ。シングルになってからは、子供達との時間を作るため、警備会社に転職。ボンボンと妹二人の3人のお父さんよ。女がほおって置かないタイプって奴。つきあってた女の人なんて、掃いて捨てるほどいたんじゃないかな。ママも、とんだ男に惚れてしまったもんだなんて、ならなければいいんだけどなあ。それで、ヤキモキしているのよ。男に失敗するのも人生なのにね。翔太みたいにノンビリ構えられないの。私って、意外と苦労性なのね。


出産予定日の1週間前なのに、いつもより、何だか腰が痛いというか、重いの。いったんは、眠りについたみたい。でも、夜中2時頃、寝る前よりもはるかに重くなった腰の痛みで目が覚めたの。「陣痛が始まったのかしら」と思ったけれど、そのまま1時間ほど待ったわ。痛みが5分間隔くらいになり、さらに痛みが増してきて、辛くなってきたの。隣りで寝ている翔太を起こしたわ。ママの運転で、夜明けの空を見ながら、翔太に抱かれて病院まで急いだわ。朝焼けというの? 素敵な空だった。一生、忘れないわよ。
病院に入る用意はママが全部しておいてくれていたの。で、身一つ、じゃなく、身二つで、家をすぐに出ることができたわ。私って、幸せよね。

7月12日午前11時28分。私、2952グラムの女の子を、無事出産したのよ。
翔太、新生児の顔を見て、ポロポロ、涙を流したんだって。ママがこっそり教えてくれたのよ。空手なんかやっていながら、気持ちはすっごく優しいんだから。そういう翔太が大好き!!
キス、キス、キスよ。顔中にキスよ。
チンチンにも、キスよ。あら、あら、お下劣になっちゃたかな。
                             ーーー第10話終了ーーー
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by tsado18 | 2011-10-31 17:47 | 女達・それぞれの道