執筆が楽しくなってきただ。


by tsado18

女達・それぞれの道(その2)

               ・・・・・・・・・・★3・・・・・・・・・・
産むことを決めたアイアン。精神的には落ち着いた。
が、引き続き肉体的な苦難が待ち受けていた。ひどい悪阻の襲来。あの快活で元気なアイアンが眉間に皺を寄せ必死に耐えている。ものを食べられず、吐き気を訴える。苦しそうにしているアイアンに、クリスもジャネットも戸惑うばかり。ジイジだけは妊娠が引き起こす身体の変化に、ある程度の知識と経験を持ち合わせていた。

「こんなつらい思いをするなんて、父親のいない子を産もうとする私に、神様が罰をお与えなさっているのね」
「アイアン、妊婦なら誰でも最初に経験する通過儀礼みたいなもの。後、2、3週たてば、おさまるから心配しなくていいんだよ。今は食べられるものだけを食べなさい。何かリクエストがあったら言って。ジイジ、買ってくるよ。生活とか将来のこととかを考えずに、お腹の中で育っている子供ことだけを考えて、好きな音楽でも聴いて、ゆったりとした気持ちで一日を過ごしていればいいんだ」
「はい、ジイジ、そうさせていただきます。ジイジは本当に優しいのね。私、また涙ぐんじゃったわ。私って、弱い人間だったのね」
「そんなことないよ。アイアンは優しくされることに弱いだけ。慣れていないのかな。つっぱって生きるだけでは、人生、半分も楽しめないよ」


「ジイジ、言いにくいんだけど。今、あたし、悩んじゃってるの。一人で悶えちゃっているの。ハアハア、息遣いも荒く、頑張っているんだけど、解決しないの」
「どうした。一人エッチでもしているのか?」
「いやだあ。いきたいときはジイジの力、借りるわよ。実は、実は、ウンチが1週間以上、出ていないの。お腹、パンパンよ。トイレで下腹に力を入れてウンウン粘ってみるんだけど、全然出てこないの。プスっとガスが出るだけ。どうすればいいの? ジイジ、すっきりしたいよ! 助けて!」
「ハハハ、今度は便秘の悩みか。今の時期はよくあるみたいだな」
「ああ、恥ずかしい。ジイジだから相談できるんだわ。でも、苦しくて苦しくて笑い事じゃないんだから」
「そう言えば、イチジク浣腸、何本か残っていたな。やってみるか?」
「浣腸? お尻の穴に刺すんだよな。かっこ悪いな」
「そんなことを言っている場合か?」
「やる。やる。やるよ。でも、クリスにだけは言うなよ。あいつ、面白がって、ケタケタ、笑うから」

「ジイジ、出た。出た。出た。今朝、久しぶりにちょろいバナナみたいなやつが出たの。感激したわ。少しだけ楽になった。浣腸、浣腸、浣腸様様よ。全部出し切ったら、凄い爽快感が味わえるんだろうな。ウンチを出し切ることが私の今の夢。ブリブリブリッ、ブリブリブリッ。黄色い液体を撒き散らしてお尻の下で爆発しないな」
「うへえ、アイアン、今、朝飯、食べようと思っていたところなんだ。それも、昨夜の残りのカレーライス。なんだか食欲が減退した」
「ごめん、ジイジ、気が回らないで。あたしってほんとがさつなんだよな。ジャネットにもう少し女性らしくしろっていつも注意されるんだ」
「アイアンの良いところでもあるんだけれどな」


「アイアンを見ていると、あたし、赤ちゃんを産むのが怖くなってきたわ」
「クリス、肉体的にはすごくつらいんだけれど、心の奥ではものすごい充実感があるのよ。あたしのお腹の中に、新しい生命(いのち)が宿っている、赤ちゃんが育っているって、実感できるの。生きていて本当に良かったわ」
「アイアン、男を虐げて、もて遊んで楽しんでいるときみたいな眼をしている」
「それも充実感あるけどよ。充実の質が全然違うんだよな。今の充実と比べたら、あんなの充実でも何でもねえよ」


ひどい悪阻もおさまり、アイアン、今は静かな日々を送っている。
ジイジの強い勧めで、出産まではお金のことで悩まないことにした。アイアンは頭の切り替えが速い。パトロンのジイジに徹底して甘えると決めたようだ。最近はジイジを恋人のような目をして見ている。信頼しきった男、そんな男が近くにいて見守ってくれている。

「アイアン、お腹の中の赤ちゃんのことを第一に考えて生活しなさい」
「ジイジ、あたし、赤ちゃんが生まれるまで、煙草を吸うこともお酒を飲むことも控える」
「成長したな。アイアン。あんなに欲望に貪欲だったのに。母になるって素晴らしいことだよな」

アイアン、外に出ることも少なくなり、ファミリールームで音楽をのんびりと聞いたりぼんやりと考え事をしたりしていることが多くなった。夢中になって読書している姿も見かける。


アイアン、ジイジのCDラックから取り出したクラシック音楽を静かに聴いている。音楽の好みも変わってきている。ジイジが外出していないことを確かめて、クリスは、アイアンを問い詰めた。

「アイアン、この前、ベッドの上で泣いたとき、『ジイジが本当のおじいさんなら良いのにって、ずっと、クリスのこと、妬いていたの!』って叫んでいた。あれ、どういう意味なの? あたし、ずっと考えていたんだ。私の中で一応結論は出た。ごまかすなよ。正直に答えろ」
「わかった。正直に言う。クリスが言い出すのを待っていたんだ」
「待って。あたしのたどりついた結論を先に言う」
「そうか。言ってみろ」
「ジイジはあたしの本当の日本のおじいさんなんだろ。ジイジとあたし、顔の作りに似ているところも多いものな」
「正解! やっと気がついたな。ごめんな。あたしもジャネットも知っていたけれど、ジイジに固く口止めされていたんだ」
「なんで、ジイジは、口止めしたのかな?」
「たぶん、ジイジはクリスが心を許してくれるのを待っていたみたいだな」
「あたし、薄々と気づいてはいたのよ。だから、ジイジと同じ部屋で寝ることも、あえて反対しなかった。逆に、ジイジが本当のおじいさんでなかったらと思うと、怖くなって今までアイアンに問いただせなかったの」 


母親になる女は、興味も生活も、変わってきている。クッキングブックとにらめっこしながら、料理も積極的にするようになった。今までほとんど料理をしたことなどなかったのに、アイアンは何をやらしても器用。料理のセンスもなかなかのもの。良い味を出してくる。食卓は急に豊かになった。クリスもジャネットも、アイアンを手伝ってキッチンで料理することが多くなった。
以前はバラバラに取っていた食事も、ジイジを中心に食卓に集まって、皆で食べるようになった。

「仕事をしなくても食べられるって、素敵なことね。毎日の時間を自由に使えるって素晴らしいことなのね。私、今、人生で一番リラックスした豊かな時間を過ごしているわ」
「ジイジ、私、こんなに集中して、本を読んだの始めてよ。素敵な面白い小説って、たくさんあるのね。一度読み始めても途中で止めなくていいって、最高の贅沢だわ。毎日が最高に充実しているの。大学で学んだ以上のものを学んでいるような気がするわ」
「アイアン、人生にはそういう時期が必要なんだ」
「働かなくて良いなんて、本当にありがたいことね。ジイジに感謝。感謝だわ。身体でたっぷりとお返ししたいのに、最近のジイジったら、淡泊よね。すぐに終わってしまうんだから」
「もう歳なんだ。あれで十二分に満足しているんだ」
「でも、なんだか申し訳なくって」
「おいしい料理を作ってくれているじゃないか。洗濯もしてくれているじゃないか。毎日、快適な生活を送ることができるのはアイアンのお陰だ」
「あたし、主婦になった気分だわ。ジイジが夫で、ジャネットとクリスは私の子供よ」
「アイアンお母さん、クリス、明日は、エビの天麩羅とマグロのサシミが食べた~い」
「ママ~、ジャネットは、おいしいチーズの入ったパスタがいい」
「ママはジイジが食べたいものだけ、リクエストにこたえるのよ。お前らのリクエストは一応聞いておくだけ。自分で勝手に作れ!」

ジイジから手ほどきを受け、アイアンはインターネットも楽しむようになった。必然、クリスやジャネットにも波及。ジイジは2台目を買わざるを得なくなった。若い3人は、あっという間に上達。最近はジイジが教えられている。


3人の生活がバラバラに廻り始めた。
クリスはハイスクールに朝早くから出掛ける。意欲的に勉学に取り組んでいる。
「男共、皆、私のご機嫌を取りにくるのよ。こっちは勉強に忙しいのにな」
「クリス、無意識に、まだやらせるオーラを振りまいているのかもな」
「あたし、あんなガキ共なんか、相手にしないわ。全く興味ないの。ちょっといいかなって思うのは、ロマンスグレーの歴史の先生だけ。少し色目使って鼻声で甘えた振りをしたら、すんごく優しいのよ」
「クリス、ほどほどにしておけよ」

ジャネットはマビニの高級クラブで働き始め、夜12時を回ってから帰ってくる。
暇さえあれば絵を描いている。素人眼にも急速に腕が上がっている。
「ジャネット、上手くなったな」
「私、ただただ、ケンジを驚かせたいの」
「恋の力って、すごいものなのね」
「最初はケンジがジャネットに首っ丈だった。けど、今は相思相愛って、感じだものな」
もう身体を売ることも止めた。ケンジのことを思うと、他の男に触わられるのに嫌悪感が沸くようになったそうだ。日本でお金を稼ぐことを考えて、マッサージの教習所に通っている。家での練習台は専らジイジ。
「ジャネット、うまくなったなあ。もうお金をとってもいいんじゃないか」
「アイアンたら、私の部屋で、長い間、ジイジにマッサージをしていると妬くのよ。これからはファミリールームでするようにする」
「アイアンのマッサージはチンチン専門だもんな。それはそれで最高に気持ちいいんだけど。 少し、範囲を広げるように指導してくれないかなあ。そうすれば、バランスがとれて、チンチンマッサージがもっと生きるような気がする」
「そうよね。周りからじっくり攻めて、最後に急所を一気呵成にだよね」
「グレース仕込みのアイアンの秘術、もう一段、レベル・アップしそうだな」
「私も、ケンジのためにアイアンからチンチンマッサージを少し習っておこうかな」
「ケンジは当分必要ないよ。若いんだもの」


「ジャコ殿、賭けのこと、お忘れになってござらぬよな。私、不肖内野忠雄、通称ジイジ。アイアン嬢をベッドの上でお泣かしさしあげ候」
「ふん、何が候だ。フニャチンで早漏のくせに」
「ま、なんとでも言え。宿敵アイアン姫を余のベッドの上にて完膚なきまで泣かせたんじゃ。確かな証人もござる」
「らしいな。クリスもジャネットもショックだったみたいだ。私とコーラに口角に泡を飛ばして夢中で話してきた」
「そうじゃ、完勝だった」
「やられたと思った。俺も男だ。潔く負けは認めよう」
「で、今度の日曜日、ロビンソンのフッドコートで、日本に行くコーラとジーナとその付録の男のサヨナラ・パーティーを開くことにあいなった。そのときの余興のメイン・イベントして、負けの約束を実行してもらう」
「わかった。演歌を歌うんだったよな。ジイジを立てて、北島サブチャンの『兄弟仁義』を熱唱するよ。あっ、悪い。ジイジ、立たなかったんだ」
「演歌だけじゃない! バクラの格好でロビンソンを手をヒラヒラさせシャナリシャナリと歩き回り、通りかかった皆々様に愛想を振りまくんじゃよ。顔は厚化粧してマスカラだ。ミスカートをはいてもらう。化粧担当は絵の腕を上げたジャネット。衣装担当はクリス。近所のバクラから大型サイズを借りるそうだ。二人とも張り切っているぞ。皆、面白がって期待してるぞ。後ろをついてまわるんだそうだ。演歌の後にはコーラ親子よる花束贈呈も段取りつけてあるからな」
「可哀想だろ。コーラとジーナは関係ない」
「でも、ないんだよな。コーラが一番面白がって協力的なんだ。写真撮影担当に快く就任してくれた」
「・・・・・・」


「ジイジ、アイアンに白状させたわ。ジイジはあたしの本当のおじいさんだったのね。あたし、それを聞いてうれしくて、うれしくて、泣いてしまったわ。だって、私、日本におじいさんがいるなんて全然知らなかったんだもの」
「クリス、ゴメンな。まだおじいさんと名乗る心の準備ができていなかった。クリスのママにはひどく憎まれているし、クリスにも誤解されて嫌われそうな気がしていんだ。血の繋がっている肉親のクリス。絶対に失いたくなかったんだ」

「ジイジ、ママは、パパの家族のことを何も話してくれなかったのよ。だから、あたし、ジイジの存在なんか、全く意識したこと、なかったの。ママはどうして話してくれなかったのかな?」
「クリス、それは全面的にジイジに責任があるんだ。ママは、結婚に反対したジイジのことをひどく憎んでいて許さなかったんだ」
「ジイジだけが悪いんじゃないと思う。私、ママの悪いところも十分に理解しているから」
「有難う、クリス。そう言われるとほっとする」

「ジイジ、私、小さい頃の優しいパパしか覚えていないの。パパって、日本ではどんな生活をしていたの?」
「パパはとても幸せだったよ。亡くなる前には素晴らしい恋をしていた。そして、恋した相手に女の子を産ませた」
「ママも、他の男達とよろしくやっていたから、おあいこね」
「その子。マサミという名前なんだ。クリスの妹になるだよな。パパが亡くなってから生まれたんだ。で、クリス、ショックを受けないで聞いて欲しいんだ。マサミの母親って、ステファニーなんだ」
「あら、何も驚かないわ。パパとママの間が冷たくなってから、子供心にも、ステファニーおばさんがパパのことを愛しているんだって、なんとなくわかっていたの。ステファニーおばさん、パパに会うために日本に行ったんだと思ってたもの。だから、それを聞いてうれしいくらいよ。日本に私の妹がいるんだ。興奮するなあ。で、その子、元気にしているの?」
「ああ、元気だよ。とても可愛い子だ。東京の家でステファニーが一生懸命に育てている。クリス、今度、マサミとステファニーおばさんに会いに東京に行かないとな」
「ワーオ! 今から胸がドキドキするな」


クリスとジイジ、一緒に暮らすことで、今までの分も取り戻す最高の凝縮した時間を過ごすことになった。

クリスは頭の良い子だけれど、常識的に振る舞いたがらないところがある。エキセントリックで激しいところがときどき露出してしまう。この辺は母親似なのかな。一つ一つ丁寧に導いていかないと危険だな。でも、クリスと同じ部屋で生活しクリスと心を通い合わせることができた。妻や息子への罪の意識から幾分かでも自由になることができそうな気がしている。

何でも話すことのできるジイジの存在は大きいわ。心から信じることができるって素晴らしいことなのね。どんなに甘えても、どんなに無理を言っても、ジイジは温かく包み込んで優しく接してくれる。ママへ対する引け目もいつのまにか感じなくなったわ。ママから自由になることができたみたい。


「ジイジ、普段から疑問に思っていること、いくつか、質問してもいい?」
「もちろん。おじいさんとして真面目に答えるよ」

「ジイジ、売春はいけないことなの?」
「そのことに、しっかりした結論が出ていなかったので、クリスにおじいさんだと名乗れなかったところもあるんだ。ジイジは頭っから、売春は悪いことだと思い込んでいた。だから、始めてクリスが身体を売っているということを聞いたとき、ショックで寝込んでしまった。何日も食事が喉を通らなかった。それで、何故、いけないことなのか、考え付く理由をすべて考えてみた。でも、どれもこれも根拠のある、確実な理由にならなかったんだ」
「売春、それ自体は悪いことじゃないと思う。でも、法律で売春が禁止されている国では、他の生活手段があるなら、できるだけしない方がいいんじゃないかな。売春は悪だと社会的風潮ができあがっているところでは、敢えて、それに逆らってまで売春をする必要があるかどうかよく考えてみる必要があるな。今のジイジには、そんな程度のことしか言えない」
「今なら、クリスに言える。売春でしか生活することができないなら、それはそれで仕方のないこと。自分を責める必要はないんだよ」

「男と女が愛するって、セックスをすることじゃないの?」
「それは違うな。愛がなくてもセックスはできるだろ。普通は、男と女が愛し始めると、キスも、セックスもしたくなっていくんだよ。逆にセックスをすれば愛が芽生えるわけじゃない」
「でも、クリス、そういう場合もあるような気がするんだけど」
「そうだなあ。クリスは鋭い。実践派なのかな。愛とセックスは平行に存在すると言い直した方がいいかもしれないな」
「クリス、おじいさんとしての希望を言わせてほしい。今は身体を売らなくても食べられるのだから、本当に好きな男の人が現れるまで、心からセックスがしたくなる人が現れるまで、セックスを控えることを奨めるな。クリスは、仕事が仕事だったから、セックスを。雑に扱っていたような気がするんだ。クリスには、燃えるような真剣な恋をしてもらいたいんだ」

「ママは闘ってると言っているけど、何をしているの?」
「ママのことについては、ジイジもよくわからない。フィリピンという国の富の偏りを憂いて、その不公平を是正しようと考えていたんじゃないかな」
「何故、世の中、不公平なの?」
「それは、ジイジにもわからない。クリスがこれから生きていく中でその答えを見つけてほしいな」

「パパとママはどうして別れたの?」
「男と女は、好きになったり嫌いになったりするもんなんだ。推測だけど、政治にどんどんのめり込んでいく激しい気性のママに、どちらかというと温和な性格のパパがついていけなくなったんじゃないかな」

「じゃあ、今度はジイジの質問。クリスはどうして売春をするようになったんだ?」
「ママが売春してお金を稼いでいるのを知ったとき、すごいショックだった。ママが倒れたとき、ママの病院代、弟や妹達の食費を作るため、怖かったけれど、ママと同じことをして稼がなければならないと思ったの。それが義務だと思ったの」
「クリス、もう、ジイジがいるんだ。生活費は十分に出せる。もう身体を売ることは止めて欲しいな。おじいさんとしての希望だけど」
「わかった。友達がいるから、今までのこともあり、すぐに止めるとはいかないけれど、止めていくわ。おじいさんを悲しませたくないもの」
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by tsado18 | 2011-10-31 18:07 | 女達・それぞれの道